第二十話

執筆者:楊海 

 

#ポリステス付近

 

オクタゴンのガードの量に比例してハンターに襲いかかるガードの数は左右される。

ポリステスやザイロコパは元々ガードが少なかった為ガードの寝返りによる急襲は被害が比較的少なく、早い段階で鎮圧された。

<スレイプニル>、ゼクターの目の前に盾と交差する剣の上に『T.F.O.V.』と書かれたエンブレムを張っている車両が見える。

その車両は形状からして――――BMD空輸可能火力支援車両――――のはずだがなんだアレは。相当に作り変えられている。

主砲のあるべき場所には四角く角張った薄い長方形――――いや、主砲の部分に巨大な包丁が刺さっていると言えば早い。

ハタから見ればまるで本来の用途からかけ離れたようにも思えるのだが彼らは彼らなりに調整したのだろう。

『T.F.O.V.』の車両は既に北西を向き、彼らはバイアスグラップラーと共にやってくるオクタゴンのガードに狙いを絞り、ひたすらそのチェインガンで掃討する。

他にも同じエンブレムの貼られた横から見ると無理やり六角形を変形させたような装甲車両が見える。彼らもまた、狙いは一緒らしい。

人任せと言うのも気分が悪いが、そんな事を言っている場合では無い。

今の状況はオクタゴンとバイアスグラップラーが敵として回っている。

東西も北も取り囲まれ、南からはバイアスグラップラーの軍勢。考えただけでも頭が痛い。

幸い西側から打ち込まれる迫撃砲の雨は『味方』として機能している。

 

「何ボサっと陣どってやがる! ハンターだったらつべこべ考えず『狩れば』いいんだよ! 何の為のハンターだ! ハンターのクセに狩られて恥ずかしくないのかい! えぇ!?」

(言ってくれるなぁ、オィ)

 

七誌は口をへの字に曲げ車両を破壊する。もう、誰がどれに撃っているかわからないが少なくとも自分のは、命中しているようにも思える。

 

「もう、オクタゴンは頼りにならんな」

「頼れる者が少なくなると悲しい」

「それ以上に裏切られる方が悲しい」

 

レオン達の戦車が見えたコウ、ユウ、ポーン、七誌は無意識のうちにアモーフィラからポリステス付近へと移動していた。

ゼクターの声が無線を通じて届く。

 

「総勢集合。今の我らに怖いものはナシ」

「それを不利だと言う」

「これだけ集まってんだ限界や不可能なんかあるわけがねぇ」

 

まぁ、確かにそうだ。いち早くポリステスとザイロコパの間に入るよう陣取ったコウは状況を確認する。

アモーフィラはとっくに陥落し敵は一度アモーフィラ側へと寄ってザイロコパへの進軍ではなくアモーフィラから本部とポリステスへ向け進軍を開始している。

ポリステス、ザイロコパ側のガードはある程度生きているが信用に値はしない。

敵の陣形は最初に東西へと広がっていたがアモーフィラへの襲撃が激しさを増すたびにどんどん縮み次第に南北に伸びる縦長の陣形をとった。

南と東からの挟撃が区切り無く始まっている。こちらは逆にポリステスを中心に南北に壁を作るように陣形を伸ばすか。ザイロコパから南下するハンターが多い事だし。

向こうが南と東のニ方向から進撃するなら、こっちは北と西で迎え撃つ。

コウが指示を出そうとした時にはもう皆南北に広がってる。互いに迎え撃つように。

 

(あららららら....)

 

コウは首を回して計器類を確認する。不意を衝かれた時は情報をもっと大量に確保せねば....

 

「『T.F.O.V.』の連中が邪魔すぎる!」

「ゴメンな。退くわ。離れるわ」

 

本部付近まで下がった『T.F.O.V.』のエンブレムが張られた車両は北上してユウとゼクターと七誌の視界を開ける。

東側に削れた本部のビルがまるで不吉な墓標のよう思えた。

その墓標にグラップラーのいつもの車両の面子にオクタゴンのガードが加わっている。

 

「どうします? ガード」

「ああなれば選択肢は一つ」

 

ユウは本部に群がる車両に狙いを定めて爆裂弾を打ち込む。

 

「これしかないってことだろ」

 

 

 

#本部地下4階

 

ライブラリから出てくる際に開いた通気口にまた潜りつつ機会をうかがう。

(バッグは取り返したが今度は銃を奪われた。バッグが無くなっても銃が無くなってもダメ。あぁなんて軟弱なんだ。ダメすぎる)

自己嫌悪に陥いりつつもあの僕の銃を強奪したあの二人組からなんとか銃を取り返させて頂かなければ。

バッグの中を手探りで漁る。奴らにスタングレネードが5、6個は盗まれた。

言い方を変えれば彼らはスタングレネードを5、6個は持っている。

バッグに残っている使えそうなものは2つのスタングレネードに4つの煙幕花火。

これで取り返すのか。まぁ泣き言は言ってられないのはいつもの事だ。

スタングレネードをそれぞれのポーチに仕込んで通気口から這い出て注意深く地下4階を歩きまわる。

 

(止めれなかったのにか?)

 

その台詞が胸に引っかかっているのか胸から鼓膜に通じて響くような思いがする。

スタングレネードを右手で握り締めてエレベータ付近を見ると....いた。

エレベータは地下四階で停まっている。二人は少し互いに話し合った後南階段へと歩く。

女性の方が僕の銃を持っていた。

どうやって取り返すべきか。楊海から階段への距離は6歩。ぎゅっと握ると楊海は女性目掛けてスタングレネードを投げつけると頭に当って振り向く。

そしてもう一回、投げつけると二重に光が走る。不意をつかれた短い悲鳴が聞こえた。

二回目を投げた瞬間に楊海は目を閉じて前のめりになりつつ両腕を交差させたまま二人に向けて突撃する。

目を閉じていた為勢いあまってどちらかに体当って勢いが殺された。

腰を抜かしたかのように姿勢を低くして引っ掻き回すように左腕を振り回すと自分の銃と思われるものを握ると右足で強く床を蹴ってさっき隠れていた曲がり角に飛び込み床に置いたバッグを引ったくると『ライブラリルーム』へと走る。

目を開いて奪い取ったものを確認すると独特のその形はまさに僕の銃だった。

ライブラリのドアを背にしてホルスターをつけ直すと銃を抜いて振り回しつつ確認してマガジンを抜いて弾数を確認するとまた仕舞う。

 

(さて、もうスタングレネードは切れた。どうやってやり過ごせばいい?)

 

膝に手の平を乗せて頭を下げる。足音が聞こえた....。



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