第二十一話執筆者:楊海
#ザイロコパ〜ポリステス
戦争の構図は『バイアスグラップラー』VS『ハンターオフィス』+『オクタゴン』ではなく純粋に『バイアスグラップラー』VS『ハンターオフィス』と変化する。
数なら向こうの方。質ならこっちの方。お互い本部を挟んで動くそぶりが無い。
南西側にいたバイアスグラップラーの進軍がハイペースで弱まった。代わりに東側、『アモーフィラ』に固まりはじめ、もうずっと前からだが、どう言う風に見ても『アモーフィラ』が占領されたように見えるようになった。
西北と東南のぶつかり合いは次第に西と東のぶつかり合いに転化して行く....コウの神経は時間と共に研ぎ澄まされる。
『T.F.O.V.』の車両が固まってザイロコパ東へと向こうへ行くのを何故かコウは注視していた。自分でその事に気付くと目を反らして計器類を見る。
東側の山にいた迫撃砲の攻撃が止んでいた。いや、『止まされた』。それと何時の間にか太陽が山を越えて戦場を照らしていた。開戦は早朝だったのに....。
(勝利条件は向こうの攻撃が止むまで耐える事になったのか。なっちゃったのか....)
砲撃が始まり南北に伸びた敵の陣形が覆い被さるように前に出る。
質こそ脆いが、一匹一匹潰していたのでは到底間に合いもしない数だ。
「煙幕弾を所持している人は装填して射出せよ!」
コウの無線の指示に一斉に煙幕弾を装填して射出する。すると本部から向こうは一斉に煙に包まれて行軍速度と攻撃速度が加速的に鈍くなり始める。砲弾や対戦車ロケット、迫撃砲が連続で打ち込まれた。
#オクタゴン本部2階
息を荒げてミダスが這って立ち上がる。確かに斬られたが、自分の体を改造したおかげで立ち上がれる。
ミダスは這って計器類に体を乗せる。揺れる視界でモニターを見つめると本部を中心に戦況は半ば膠着状態に陥っている。
今は衝突しているがやがて破られるだろう。撤退を余儀なくされる....。
「ガードをもし、あの男の管理化に置かなければ....このようにハンターオフィスをここまで危機に晒さず済んだ....」
ミダスは計器のスイッチをいじくると血で自分の体が滑って床へと転がり落ちる。
計器を背にして左手をコンソールに乗せて手探りであるボタン捜すとそれを強く、手応えが無くなるまで押しつづけた。
「これでいい....これで、償える....これで....」
コンソールの液晶が寂しげに照らされている。
(....アモーフィラチョクツウチカツウロノヘイサ....)
#地下4階
(ライブラリを見たときから、あの男に鉢合わせた時から成功なんて無かったんだ!)
『ライブラリルーム』のドアは完全に閉ざされていなかった。ライブラリに入ってワイヤーロープを壁に投げつけて通気口へとまた入る。
さっきとは別の方向の道へと行かなければ....左手法で迷路のような通気口を移動し、通気用の網が見えた。ピアサーで網をこじ開けようにも外せる気配がない。
ワイヤーソーで無理やり網を削って飛び降りると真っ暗な空っぽの部屋に通じていた。
ドアをゆっくりと開けると誰もいなかった。
スキップするように軽やかに歩いて階段を登って2階に行くと廊下の光景に背筋に寒気が走った。
RGが全員殺されている。誰一人、息がないのでとりあえずRGの持つバトン型のスタンガンとそのバッテリーを失敬して情報端末室へとできるだけ音を立てない早足で急ぐ。ノックしてからゆっくりと、ドアを開けるとミダスが倒れていた。
「『司書』。ミダス」
台詞に反応して視線をこちらへと向けた。
「司書。何があったのですか?」
「ブラドに....攻め込まれた....」
ミダスに目を反らしてモニターに映っている光景を覗いた。
(あぁ....)
なるほど。やっとわかった。今オクタゴンに何が起こったかと。何でオクタゴンにハンターオフィスがやってきたのか。
僕を捕まえるわけでもなく、ケンカをする為に人数を集めたのかと。
「司書....」
ミダスの頭が下がったまま動かなくなった。心配げに肩を揺すっても動きそうにも無かった。
肩から手を離しモニターを見つめる。このままハンターオフィスが潰れちまえばいいと願ったが、逆にブラド財閥が率いる世界もシャクに触る。
ミダスの頭が下がったまま動かなくなった。心配げに肩を揺すっても動きそうにも無かった。
肩から手を離しモニターを見つめる。このままハンターオフィスが潰れちまえばいいと願ったが、逆にブラド財閥が率いる世界もシャクに触る。
地下四階で出会ったあの二人も、九割の確率でブラド財閥の人間....心の奥底から自分を否定された不快な気分を思い出す。
楊海はミダスのポケットをまさぐって二枚組みのカードキーを見つけた。
両面とも、プラスチック製で、フチが金属で強化されている。それぞれに八角形に囲まれ「1」「2」と番号を振られている。
楊海はそれをコンソールのスリットに指しこみ動かした。ミダス名義で賞金首を取り下げを命じれば自由の身になる。
意外と操作は単純であっさりとそこまではたどり着けた。さて、理由としてだが....『人違いだった』と。適当すぎるがこれでよし。どうせ誰も理由なんか読みはしない。
楊海はコンソールの上にバッテリーを置き、ドアを開けてできる限り遠ざかる。
銃を取り出してバッテリーに狙いを向けてトリガーを引くとマバタキと同時にバッテリーが粉々に砕けて液や破片が部屋中に飛び散った。
楊海は踵を返して西側に向かおうとするとあの二人がいた。
「お前は台無しの天才だな」
呆れ疲れた口調で男は喋るとスタングレネードを投げつけた。
後ろへと飛び跳ねて閃光を避ける。後ろへ飛び跳ねた拍子にそのまま転がって北へと折れる。
膝を使って立ち上がると再び西へと駆けてエレベータへと向かう。
(....アモーフィラチョクツウチカツウロノバクハカイシマデ....)
#ポリステス
「さぞ美しき、足を止めての殴り『愛』」
「『愛』じゃないと思うぞ」
ゼクターの冗談に七誌が不快な調子で突っ込む。
「げに美しき、足を止めての殴り『哀』」
「『哀』でもないだろうが!」
しばらくしてからゼクターの声が聞こえた。
「あな美しき、足を止めの殴り『逢』」
「うるせぇ! さっさと撃て!」
砲弾がそれぞれの陣営に飛び交う。数のせいか、ややハンター側が劣勢だった。
「T-99連隊を囲むようにグラップルタンクとムハンドーフォーが....」
誰かの通信が聞こえた。本当だ。五両か六両のT-99にグラップルタンクが周りを囲むようにデコレートされて両脇とその後ろにムハンドーフォーがいる。
「....かかってこい....な?」
ユウは南方へと下がるとT-99ゴリラから先に狙う。赤黒いその車両は非常にゆっくりで、ATサイクロプスに似ているが、ソレとは比べ物にならない硬さを誇っていた。
その砲塔から繰り出される威力もまた比べ物にならない。
固定砲塔なので誰もが機動力を生かして死角へと回りこんでいた。死角を守るムハンドーフォーやグラップルタンクは楽に潰れていった。
レオンと七誌が北方へ向かって挟撃している光景が見えた。
(流石に一発だけじゃこたえないわな)
ユウはT-99及びグラップルタンクの機銃掃射でバラバラと装甲タイルが剥がされたのに気付き急いで距離を空ける。
「被弾か....」
歯を噛み締めて、ホローチャージを詰めて砲塔を向ける。動きが比較的鈍いので案外狙いやすかった。
<ブラック・ウルフ>から真っ直ぐにT-99ゴリラを狙うとホローチャージが脇腹を削り炸裂して相手の装甲が溶け落ち、瀕死で喘いでいるようにも見えた。
<スレイプニル>が砲弾を打ち込んで完全にトドメを刺した。
「聖・剣・抜・刀・!」
レオンの操る<ロー・アイアス>のエクスカリバーの光条がグラップルタンクもろともT-99ゴリラを貫く。
トドメに『ハースニル・エイト』が砲撃を食らわせると崩れ落ちたが負けたと言う様子はない。
「まだやれるってその根性が凄くうらやましい」
<ロー・アイアス>はゆるやかに止めを刺す。
「ちゃちゃっと行ってみますか」
「こっちも負けるかや」
敵を補足しようする<スレイプニル>の右舷に何かがぶつかった。ムハンドーフォーのロングバレルが密着していた。
「なんてカミカゼ精神」
離れようとしたその時にロングバレルが歪み、崩れた。崩れた拍子にタイルが何枚か剥がれたがそれだけですんだ事を幸運としよう。
「そこ動けるか!?」
弾道を辿ると黒い、6輪の装甲車があった。砲塔が何か見慣れない。BMP3だったけ?
「救援ありがとうございます」
「まだ来る! 気をつけろ!」
本当に向かってきている。T-99ゴリラは少しずつ広がり、ハンターを覆うようにグラップラーの車両兵団が位置するとことに気付いた。レオン、七誌、ユウ達が先走って活路を開こうとした時に地鳴りが聞こえた。
(....アモーフィラチョクツウロノバクハヲカイシシマス....)
地面から爆煙が吹き上がる。誰もが一斉にそれを注目した。
本部からアモーフィラの道が地割れを起こして幾つかの車両が裂け目に飲み込まれ、次にはポリステスとアモーフィラ、ザイロコパとアモーフィラに繋がる道が一気に裂かれた。
敵車両のほとんどが割れ目に消えるとコウは全員にザイロコパとポリステスに位置するよう命じた。
戦場の時間がほんのわずかに停止した。
#本部地下二階
地震が起きたがびくともしない。
楊海も地震にめげず迂回して、エレベータの広場へと飛び込む。
あの二人組はいないのがわかると煙幕花火を焚いて階段に飛び込む。
階段を出て西側へと走る。
住む者も、護る者もいなくなったこの建物が突然空虚な物に感じた。
東西北と町があって、ガードがそこから出入りできるのだからこちらも出入りできるはずだ。
足元にはやはりRGの死体が転がっている。
『←ポリステス』
何Mか走ってドアを開けて広がったその光景はトンネルが遥か向こうに繋がっている。
暗く照らし出されたガードの車が乗せられたリフトに飛び乗る。リフトの上にレバーを見つけたのでグイっと引いてやるとゆっくりと滑るように走る。
振り落とされないように金柵を握りしめ、姿勢を低いまま維持する。
しばらくすると停車場が見えてゆっくりとスピードが殺されやがて停まる。
バッグを担いで光が刺し込む方へと出る。
『↑ザイロコパ』
『→アモーフィラ』
『→本部』
スロープを駆け上がると外は明るかった。
張り紙からしてここはポリステスだろう。
出入り口に駆け上がると外は物凄い騒ぎになっている。
楊海はすぐ近くの薄い紫色をしたビルの影に駆け込んで木箱で覆ったシェルターの入り口に飛び込む。
ロックピックを使ってシェルターのドアを開いて2畳程度のコンクリートのスペースに崩れた。
ドアが強制的に、自動で閉まる。
楊海はマスクをもぞもぞとはずして床に伏せたままでいた。
#本部地下1階
(逃げきられたか?)
ポリステスへと移動するリフトを眺めてオリシスは大きく息を吐く。
踵を返すとザイロコパ側のリフトへと急ぐ。
「逃げられた?」
「逃げられた」
先にザイロコパ側へのリフトの上にライラが乗っていた。
オリシスは金網を閉めてレバーを引いて発進させる。
「あの泥棒、私たちで手配しますか?」
「その必要もない」
リフトが風を切る。その風が、オリシスとライラの頬を撫でた。
「賞金首に挙げられた奴は野垂れ死ぬか、裏切られ死ぬのが宿命だからな。何にせよ、独りになる」
ライラはじっとオリシスを見つめていた。
To be continued...