第十九話

執筆者:楊海 

 

#オクタゴン本部地下2階

 

「どうしてこんな事態になるんだ!」

 

ミダスはモニターパネルに右拳を打ちつけた。 アモーフィラが陥落されてしまったらもはやオクタゴンには打つ術はない。

こうなった以上、アモーフィラをオクタゴンから切り離さなければいけないとミダスは悟った。 交戦からわずか数時間足らずでアモーフィラが陥落。

ミダスはオペレーションルームから出てそのままコントロールルームへと走った。

コントロールルームでアモーフィラを繋ぐ全ての地下道を封鎖する。 息を荒げてコントロールルームのドアを開けるとオリシスがいた。

 

「どうしたんです?司書」

 

今までどこに行ったのだろうと言うミダスの想いをよそに眉一つ動かさず、淡々と言葉を発した。

 

「アモーフィラの防衛線が突破されてしまった。こうしている間に奴らは地下道を抜け、ここに到達するだろう。それだけは断じて避けなければならない」

「それで....どのような方法をとるつもりなんです?」

「アモーフィラを繋ぐ地下道を全て封鎖する!」

 

ミダスは吐き捨てるように話し、オリシスを通り抜けようとしたが立ちはだかるように邪魔をする。

 

「どけ!一刻を争っているんだ!」

「司書。その作戦は頂けません」

「何故だ!」

「私はあなたの敵だからです」

 

オリシスの言葉にミダスは混乱した。理解しようと考えをめぐらした瞬間にはオリシスに殴り倒されてドアに叩きつけられる。

 

「どうですか司書。私のアンドロイドは。10体程私の意匠を凝らしてそれぞれのオクタゴンの兵士の中に混ぜたのですがね。たかだか10人なのにアモーフィラの防衛線は歯が立たなかったのですよ。素晴らしいと思いませんか?」

 

壁を頼りにしてミダスは立ち上がろうとする。

 

「ハッ....『埋伏の毒』か....随分とみみっちぃ策だな。」

「『ライブラリ』にはありませんでしたか?」

 

オリシスの目は司書を敬っていた目ではない。自分よりも格下の人間を見下す侮蔑の目だ。

その目で見据えながら立ち上がりかけたミダスを蹴飛ばした。

 

「喜びなよ。『大破壊』以前の技術がここまで正確に残っていたオクタゴンが我々の手に渡るって事を。大義名分でトレーダーを襲える悪党の巣窟、『オクタゴン』が消える事で世界平和に一歩近づくって事にさ!」

 

刀を抜いて、ミダスを斬りつける。オリシスはなおも言葉を続ける。

 

「悪党の親玉が!」

 

悪口雑言を喚きつつミダスを切り刻んでは刺した。

目に見えてミダスの存命はないとわかる程刻んでやると刀を降って血を飛ばす。

 

「....ったく、誰が研ぐと思ってんだよ....」

 

オリシスは刀を下ろしたままミダスの亡骸を踏みつつライブラリへと足を向けた。

 

 

 

#本部地下4階

 

その大部屋に照明のスイッチを入れ照らす....。

柱と一体となった巨大なハードディスクドライブ、『ライブラリ』が照らし出されその大きさと光景に唖然とした。

『ライブラリ』の下へと移動すると楊海は立ち止まって天井を眺めながら右手を動かす。どうやら不穏な匂いを感じ取ったらしい。

動かしている右手の指捌きは中世の魔法使いを思わせる複雑な動きを見せた。

 

「えっと。あっちとこっちで3人から5人位か。近い所で3人として考えると....上に3人いるとして....上の....東かな? そこに一人。んで南に一人としたらあと一人がわからんな。もしかしたら来ているのかな? あれ? 実は増えてる? どっちにしろ早くしなくちゃ」

 

ライブラリルームの電源スイッチのカバーを見る。背中側のポーチに右手を伸ばし、小さい十徳ナイフのような折畳式の万能工具と銅線を取り出す。

左手を壁に当てると右手に持ったドライバーでネジを取ってカバーを取り除いて回線を引き出し、背中側のポーチから銅線を取り出した。

まず本当の回路を剥き出しにして――――銅線を繋ぎ合わせて――――更にその銅線をスイッチ器具に繋いで――――手馴れた手つきで、即席で延長スイッチを作り上げ、『ライブラリ』の元へと持っていく

『ライブラリ』の陰に隠れるようにスイッチを設置した。即席だから強度にかなり問題がある。それなのにグラグラと天井が響くたびにわずかだが動く。まあ、多分大丈夫だろう。

思わず踏んづけたり、蹴っ飛ばさないように気をつけつつ移動して左手で工具を元の場所にしまいながら小さな鏡をバッグから取り出すと『ライブラリ』の陰から出入り口の様子が見えるように計算して設置する。バッグを『ライブラリ』の陰に隠して静かにライブラリを見上げた。

『ライブラリ』はオクタゴンそのものを動かす物ではなく、あくまでもオクタゴンのこれからの指針を決める物である。

その指針の正体は今まで人類が培った経験に他ならない。

『ライブラリ』があったこそ、大破壊に備える事が可能となり、今も高い技術水準を保持しながらオクタゴンが存在するのだ。

考えただけで震えが止まらない。今までの人類の足跡が、これに込められていたとしたら一体どれだけの人間が助かるのだろう。

高鳴る胸を抑えつつ『ライブラリ』の溶接面を見ると今度は左腰のポーチから泥棒用具の一つである『ピアサー』と呼ばれる10cm程の金属棒を取り出す。

見た目はシャープペンシルを少し太くしたような物でそれを回すと先が尖った金属がゆっくりと覗く。

今度はピアサーで溶接面を掘り込むようにこじ開けようとするが外れない。 鋲で止められているわけではないのにどうしてだろう?

楊海は『ライブラリ』を撫でてもう一度確認すると、その溶接された板と足元の床板と同じである事がわかった。『ライブラリ』にひれ伏すようにしゃがみ、床板を撫でる。

立ち上がると得心したようなうめき声を上げた。

くっついている。床板と柱が一体になるように。

床と『ライブラリ』が一緒になってくっついているのだから....『ライブラリ』を剥き出しにするには床板をも剥き出しにしなくちゃいけない。

事の重大さに気付いて思わず呟いた。『さすが人類最後の砦』と。

溜息を吐いてちらりと鏡を見ると人影が見え、間髪入れずに『ライブラリ』の陰へと隠れ、『ライブラリ』を背にして姿勢を低くしたまま鏡を見つめる。

人影はゆっくりと、銃を構えながら確認するように近づいて部屋に侵入した。

 

『女性....?』

 

息を止め、即席で作ったスイッチにゆっくり左手を伸ばした。

伸びきった腕は緊張し中指と肩に一本の針金が通った感覚を覚える。

床に左腕を伸ばしたまま這い付くばったその格好で注意深く、鏡に映った女性を観察する。

彼女は部屋に入ってくるなり『ライブラリ』へと伸びている銅線に目を止める。部屋の違和感に気付いた。

更に銅線が伸びている方向へと目を追わせる。銅線は『ライブラリ』の陰へと伸びている。

ゆっくりと歩を進める。銅線を避けて外側へ、右側により鏡を利用して『ライブラリ』の向こう側を覗こうとする。

出入り口から彼女の歩幅で4,5歩程離れた。その距離メートル法で数えればおおよそ5mくらい。

ミミズのように這っている銅線が急にピンと張り詰めると突然、照明が消えて出入り口から差し込むわずかな光以外部屋は暗闇に覆われる。

照明が消えたと同時にカチンと言うプラスチックと金属が跳ね返る軽い音の後にバタバタと人間が跳躍する足音が続いて突然音が止む。

とっくの前に女性は『ライブラリルーム』から外へ駆け出ていた。

外から覗いて『ライブラリ』を見る。

確実に『何か』がある。そして確実に『誰か』がいる。

よっぽど特別な人間でない限り、決して入れることの無いオクタゴン本部の地下4階に。

ハンターの連中にそんな特権があるとは思えないからハンターの人間ではない。

ここに入れるオクタゴンの人間はミダスとRGだけ。しかし彼は始末されたはず。

RGも殆ど駆逐したし、第一こんな事をやれるわけがない。

じゃあ。あの中にいるのは誰?

銃を構えつつ『ライブラリルーム』を伺う。

部屋の内側から壁を蹴るような音が聞こえた。

その音は止まることがなく、時間とともに出入り口に近づいている。

徐々に目が慣れたおかげでライブラリルームの中の輪郭が見え、女性は一歩遠ざかる。

今度は乾いた金属とコンクリートがぶつかるような音が聞こえた。

音からして入り口からそう遠くは無い。

しばらくすると壁の内側から何か大きい物が這うような音が聞こえた。

 

それは天井を通り過ぎ....音が無くなる。

銃を構えたまま10分くらいのこう着状態が続く。

最後に音が聞こえなくなってからもう、何も『ライブラリ』から出る音を聞いてはいない。

腕を下げ、銃口が下を向く。

目を『ライブラリルーム』から背けると足元から小高く真っ黒な山のような物があった。

それは視界に入るや否や一瞬僅かに小さくなったと思いきやいきなり体ごと女性の腹部へと飛び掛って体当たりを食らわされ、『ライブラリルーム』へと飛ばされ背中から叩きつけられた。

起き上がって銃を構えた時にはスライド式のドアが音を立てて閉められ部屋全体が暗闇に覆われた。

ドアを開けようと飛びついてずらそうと試みるがどう言うわけかびくとも動かない。

廊下に『ライブラリルーム』へと続くドアを叩く音が何度も聞こえた。それと怒号も。

 

(あの人は誰だろう?)

 

怒号が背中から聞こえるが、ドアを叩く音が一緒になって聞こえる限りまぁ大丈夫だろう。

しかし、早く『ライブラリ』から離れなければ。本部から逃げなければ。いつRGが大挙して押し寄せてくるかわからない。

それに....非常に予定外だった。軽率だった。浅はかだった。

『ライブラリ』があそこまで頑丈に守られているなんて。予想はしていたが、ああ言う構造とは思わなかった。その上あまりにも大きすぎまた多すぎる。

とりあえず今回は『ライブラリ』そのものを盗むのを諦め、他のオクタゴンを形成する物....例えばオクタゴンの資金源に関するものや機密書類とかを持っていかなければならない。

別にオクタゴンのスキャンダルも悪くはない。とにかく弱みを握らなければ。 で、ないとトレーダーの不通により苦しむ人が増えてしまう。

それと司書と『交渉』して賞金首を取り下げる事を成し遂げなければ。

早歩き気味でライブラリ付近の曲がり角を左手に折れて5M以上は歩き、再び右手に折れて非常階段へと向かおうと、登ろうとしたらあの女性の仲間だろう、男がいた。

鉢合わせた瞬間に一歩後ろへ跳ねとび距離をとる。

彼の右目の傷が目立つ。彼もまた一つ仕事を終えたらしく気が立っているようにも思える。

 

「ウホッ! いい恰幅!」

 

そして男は握り締めた冷たく輝く長いモノを僕の目の前に突き出した。

右手には黒いモノを握り締めている。

「殺らないか?」

 

いや、このセリフは冗談だが....下手に動いたら殺すつもりは十分にあるだろう。

 

 

 

『ダークマター(暗黒物質)』。

 

そんな言葉がオリシスの脳裏をよぎる。

蛍光灯の光が薄暗いせいか目の前の人間が光を吸収して文字通り、真っ黒な人型を形成している。

輪郭が曖昧で、立体的な感触がしない。

瞬きするたびに光が吸われているようにも思える。このままでいたら部屋中が暗黒世界になってしまうようにも思える。

刀を下げると同時に銃を突き出す。

幸い壁には遠く跳弾の心配も無い。どう遠く見積もっても有効射程距離内にも入っているので狙っている限りまず間違いなく命中する。

 

「両手を頭の上まで上げろ」

 

一瞬ためらった様子だが、銃に怖気づいたのか素直にゆっくりと両手を頭の上まで上げて後頭部に乗せる。

 

「誰だ? お前は?」

 

しばらく経っても立ったままでいる。

 

「もう一度聞く。名前は何だ?」

 

答えない。ただ、答えの代わりに苦しそうなうめき声を上げた。

吐き戻しそうな、腹から出るうめき声が目の前の人間から発せられ、顎を天井に向けつつ膝が曲がりゆっくりと右側の壁にもたれると頭を背けた。

喘ぎ声も一緒に発している。やがて苦しそうに壁に沿って崩れると床に倒れこみ、横向きになったまま動かなくなる。

意外な行動に混乱したが銃口を向けている事には代わりがない。

このまま銃弾を打ち込んで楽にしてやるか、それとも放って置くか悩む。

 

「....立て。」

 

そう勧告しても動かない。本当に死んだのだろうか?

 

「立てと言っているのがわからないのか?」

 

マスクのおかげで確認が出来ないが、とりあえず止めを刺してやれば死んだ事になるだろう。

トリガーを搾ろうとしたその瞬間に突然右手が銃のスライドに乗っかって一気に押されたまま握られ、起き上がる。完全に引こうともトリガーが動かない。

覆い被さるように体が互いに合わさり背中が壁に叩きつけられるといきなり離れてこっちを向いたまま後ろへと跳ね飛んで曲がり角へと消えた。

銃器から手が離れた際にトリガーを引いたが弾丸が出ない。足元にマガジンがだらしなく横たわったまま蛍光灯に照らされている。

 

(してやられたか)

 

しかし追うのは危険だ。マガジンを拾うと迂回して彼がまた行くだろうライブラリへと走る。

 

 

 

楊海は曲がり角でピアサーを逆さに構えて内側の壁に張り付いていた。

しかし足音が遠ざかるのが聞こえ、音がやんだ後に非常階段へと歩もうとしたその時だった。

左手が何か軽い。周りを見回す。そして悪寒が背筋を通り抜ける。

バッグをどっかに置き忘れた。笑い事で済めばいいのだが全然笑い事じゃない。

何せあの中には予備のスタングレネードや煙幕花火、泥棒道具のスペアなどを入れっぱなしにしている。アレを置き去りにしてしまったら、間違いなくヤバイ自体に陥る。

多分『ライブラリ』から通気口を経て出てきた際に『ライブラリ』の中か通気口かに置き忘れたのだろう。

所持品を確認した。泥棒道具一式に....スタングレネードと煙幕花火を一つずつ。後ガウスハンドガンとその弾丸数発。

急いで取りに戻ろうと『ライブラリ』の付近の曲がり角に歩いてたどり着くとあの右目に傷を負った男とまた鉢合わせた。左手には刀の代わりに僕のバッグを持っていた。

男は鉢合わせてしまった事に何ら慌てるそぶりも無く、冷静にスタングレネードを投げつけてきた。

目を背けて体を捩じらせたまま床にうつ伏せに倒れこむが僅かに間に合わなかった。視界が暗闇に覆われ目を開いているのか閉じているのかわからなかった。

 

(くそ。ドロボーめ....)

 

自分のやってる事を棚に上げて、男をうつ伏せたまま呪った。

左腕を持ち上げられると左脇腹を思いっきり踏まれた。

もう一発踏まれるとボールのように胸部を蹴り飛ばされて背中が当る。

引っ張られている自分の左腕を自分の右腕で掴んで起き上がろうとするが手を離されて無様に崩れた。

顎に蹴りが入る。蹴りいれられたおかげで少しだけ戻った視界が暗転する。

もう一度顎を蹴られそうになったが何とか腕に当ったおかげで守れた。

攻撃は止んだが反撃は出来そうにも無い。

 

「立て」

 

と言っていたのだと思う。そのまま無視して回復を待っていたら無防備な腹部に蹴りが入った。

 

「立てと言っているだろう」

 

腕を使って立ち上がろうとすると腕が足で払われ肩から崩れた。

 

「誰が腕を使っていいと言った?」

 

肩が床につくと一緒に頭に体重を乗せて踏むように蹴られる。

視界がやっと拓いたがテレビの砂嵐のようにノイズだらけだ。でもいい。真っ暗よりかはマシだ。

二度ほど荒い息を吐き、体を捩じらせ手を壁に伸ばし震えつつ立ち上がる。腹部はともかく甲冑の死角を縫われて攻撃されたおかげで体中が痛い。

腕はだらしなく垂れ下がり、壁にもたれて斜めに力なく立つ。膝に少しずつ力を入れてこわばらせ、力を抜いて弛緩させた。一応、下半身には力が入る。

男は銃口をこちらに向けていた。銃の種類は....H&KのP8と言うのか、余り詳しくないからよくわからない。(第一視界にノイズが走ってるのだし。)

男の背後から女性が出てきた。さっき僕が『ライブラリ』に閉じ込めたあの人だった。

願わくば彼女が男の敵であるように、と祈ったが男は男でも、僕の敵らしい。

 

(....冗談じゃない)

 

このコンディションで二対一。フラッシュグレネードを投げつけても絶対に向こうの弾丸の方が早い。さて、どうしよう。今の段階では、このまま様子を見ておくか。

 

(観念したか)

 

銃口を突きつけ幾つか質問しようと思う。もう、さっきのように不意をつけないだろう。

ここでまた死んだふりをしてみやがれ。本当に死なせてやる。

 

「まずそのマスクを外せ」

「....」

「は・ず・せ」

 

侮蔑の込められた声で喋る。

相手は状況と空気に負けて両手をゆっくりと上げて顎と両耳下についているストッパーを外してマスクをゆっくりと外した。マスクを外した時の手の位置は頭の上にと指示する。

 

「名前は?」

「木へんに易学の『楊(やん)』と海で『海(はい)』。」

「やんはい....やん....! 賞金首さんがこんな所にいるとは」

「僕は無実だが」

「ウソ。貴方は一体何を企んでいるの?」

 

ライラの銃口が頭部に向けられたのが見えた。

 

「そしてどうやって、そして何の為にここに入った?」

「世界を救う為に真正面からすーっと」

「つまらねぇジョークだな」

 

このジョークを飛ばす余裕。

それに加えて明らかに何かを企んでいるような、狙っている瞳が気に食わない。

危機的状況なのに、楽観視した、平和ボケの人間に多く見られる目だ。

良く言えば希望を持つ前向きな目。悪く言えば現実から目を背けた死んだ目。

この後に及んで何か打開策でもあるとでも言うのかこの男は。

 

「で、火事場泥棒でもしにきたのドロボウサン?」

「あぁ。火事場かどうかは意識してないけど」

「何を盗むつもりだった」

「『ライブラリ』とその他良さそうな物」

「盗めたか」

「盗めなかった」

 

だろうな。『ライブラリ』が盗めるワケがない。

 

「貴方がたは一体誰なんですか?」

「その前にこっちの質問に答えてもらおう」

 

こっちの要求に対し、楊海が顎を強く噛み締めた。

 

「何の理由があってここに入り込んで『ライブラリ』やその他良さそうな物を盗もうとする」

「....大破壊前の情報が欲しいから」

「それは目的だろ。俺が聞いているのは理由だ。で。大体大破壊前の情報を手に入れてどうする気だ? 再び引き起こすリセットスイッチでも作る気か?」

「逆だ。大破壊を繰り返さない為にも、大破壊のことを知る必要がある。それに大破壊前の技術を以ってすればこの世界は復興できるはずだ」

「それは不可能」

「何故言い切れる」

「大破壊を引き起こしたのは大破壊前の技術....」

「止めれるのもまた大破壊前の技術」

「止めれなかったのにか?」

 

楊海は唇を噛んで押し黙った。このもっともらしい言い方に長けた奴に『現実を見据えろ』、と言う台詞が喉の奥に引っかかったところで止まる。

コイツをどうしてくれようか。このまま捕らえてバイアスシティに連れて行き『作り変えて』やろうか『生まれ変わらせて』やろうか。しかしコイツに聞きたい事がまだある。

 

「その銃をこっちに捨てて渡してもらおうか」

楊海は一呼吸置くと視線を変えず、手探りで背中と右腰をまさぐりホルスターを外してホルスターごと銃を、ライラと自分の足元の間に捨てると乾いた響きが立った。

ライラが拾おうと姿勢を下げ、楊海に一瞬目を反らすと奴はこの瞬間を狙ったかのように突然動き出した。スタングレネードが楊海の背中から足元に落ちると爆発し閃光が周りにほとばしる。

視界を奪われて右手が何かに握られた感触を覚えるとそのまま引っ張られて姿勢が崩された。

それと同時にバッグを握っている左手が無理やり解かれたらしく軽くなる。

鈍器で床を叩いたような鈍い足音が何回か聞こえると視界が再び開くとその頃には彼はもういない。

 

(何て奴だ....)

 

しかしだ、左手に持っていたはずのバッグは奪い返されたが奴の銃は奪い返されていない。

奴はバッグを奪いに戻った。と、言うことは高い確率で銃を取り戻しに来るのだろうな。

ライラに持っていてもらうよう頼むと一緒に非常階段へと向かう事にする。

 



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