第十八話

執筆者:楊海 

 

#アモーフィラ〜ザイロコパ側ハンター+オクタゴン陣営

 

無線でいろんな声が連続してスピーカーに送られる。

聞き取れた物から順に挙げていくと....

 

"Be Attitude For Gains....Keep Salem,Take Care....and Belive Our Support."

"GodSpeed! GodSpeed! GodSpeed! GodSpeeeeeeeeeeeeed!!!!!!!!!!!!!!!!"

"Welcom To BattleField. And Remember. No Haven,No Refuge,No Shelter."

"May the Force Be With You!"

"The Audience are Already Waiting! Have a Nice Gig!"

 

威勢の良いのもあれば、囁くような祈りのような声も聞こえた。

 

「強えぇ....。」

 

ユウが呟く。

応援しているハンター側もずっとオクタゴンにまかせっきりでいるワケが無い。

隣り、いや、左舷にいた<ハースニル・エイト>....七誌の戦車がムハンドーフォー目掛けて主砲を打ち込む。

砲弾はATサイクロプスの装甲にまっしぐらに向かって命中し破砕する。

 

「やりますねぇ」

「そっちこそ」

 

七誌は見ていた。何ら滞りなく、ユウの滑空砲がまた別のATサイクロプスを貫いていた事に。

 

「数が多いだけだな」

 

ポーンの無線にコウがすかさず反応する

 

「だからと言って油断はしないように」

「へーい」

 

(数は確かに多い....だけだとしたらなんでまたそんな不利益な戦法を?)

 

冷静に状況を見据える。ムハンドーフォー、ATサイクロプス、T-99ゴリラ、グラップルタンク、蜂の巣キャノン、ガンタワー....もう、見るだけで数えるだけでイヤになりそうになるがまるで張子のように動かない。

いや、動いているのだろうけど、どうにもゆっくりで、心理的威圧を狙っているようにも思える。

 

(あれだけあるのに小出しにするということは勝つ気が無い....だからと言って手を抜いていないということは簡単に負ける気もない....何かを待っている。こっちの消耗か、それともこっちが前に出ることか?)

 

日が昇り始めて東の空が僅かに、RGBを中途半端に変化させたように赤く染まる。

時間が過ぎるのが異常に早く感じる。

前日まで貼り付けられていたあの作戦表を思い出した。

 

「ユウ! 七誌! はやって前に出ない! 総員2時の方向へ後退!」

 

口早なコウの言葉が聞こえた。するとアモーフィラの西側にある山から白い物が幾つも飛び出しポリステスとアモーフィラの中間から西に降り注ぐ。

白い物が着弾すると物凄い破裂が縦に走る。それが一つでは無い十、二十と雨のように降りかかり襲う。

『L-バリスタ』。迫撃砲を高速で連射できたらと言うコンセプトで作り上げられたそのデカイ箱はアモーフィラ西の山に隠れるように設置されている。

オクタゴンのガードの持つエチオピアやクレアボヤンスによる情報がより正確な発射を可能にするのは言うまでも無い。

 

「ついでに食らっとけ」

 

ユウが下がりながら一緒に砲撃を打ち込む。別にコレをやっているのはユウだけじゃない。

七誌も、ポーンも、ずっと遠く向こうにいるレオンもランもエイルも、ゼクターも皆が皆当たり前のようについでに打ち込んでいた。

迫撃が止むと向こうの進撃スピードが目に見えて早まった。

アモーフィラとザイロコパの西側の侵攻が停まり、アモーフィラからポリステスへの侵攻へとシフトされる。

 

「フン。逃がしはしないよ逃がしは....」

「狩る。だからハンターだが何か?」

 

#ポリステス

 

「楽しそうと美味しそう。どっち?」

「ん〜....」

 

ランの悩んだ声の後は晴れた声。

 

「楽しく美味しい。てか絶対に馬鹿にしてるでしょ?」

「いや、別に」

「敵がそちらの侵攻にシフトした。そちらが激戦区になる。」

なるほど。確かに侵攻量が増えた気がしないような。

ガードがハンター達の後方からのそのそと出てくる。ガードの誰もが対戦車ロケットとバター・イン・ジャムを構えて敵の戦車にそれぞれの弾丸を打ち込みポリステスへと下がる。

バター・イン・ジャムの弾はそれ用になっているのか物凄い遠くへと飛んで行く。

 

(アレ、妙に欲しいなぁ....)

 

レオンのアモルフが火を吹く。砲弾がレールに乗せられた用に真っ直ぐATサイクロプスに命中する。

砲弾の命中により対象は大きく減速した。その形が大きく歪められた小高い鉄の丘は、ただ不器用にみっともなく固定砲塔をこちらに向ける。

<スレイプニル>がその小高い丘に向け砲弾を打ち込むと鉄辺が間欠泉のように吹き出し周りに散らす。

 

(なーんか、ATサイクロプスが多い気がするが気のせいか?)

 

「よ....っと」

(お?)

 

潰れそうにも無いATサイクロプスの車体右が思い切りへこみ、動きを止める。

アレはエイルの砲弾だ。着弾すると物凄いへこむ。アレのおかげでよくわかる....。

レオンは息を吐き考えを巡らせる。自動車両の割りには戦術がそれなりになっている。 決して近寄ることなく、だからと言って遠ざかることなく、それぞれがそれぞれの役割、特徴、身の程を知って行動している。

たまにATの影からグラップラーの連中が出てくるが副砲のいい餌食だ。

後何時間で勝敗が決まるのだろう?

結構長引くだろうな。あれだけの量がいて、あれだけじらしにじらして掛かってくるのだもの。

オクタゴンよ。よく今までこんな連中とケンカして生きているもんだ。

 

 

 

#オクタゴン本部エレベーター最下層

 

「何だ....? この音は?』

 

ズーンっと物凄く腹に響くような音が地下四階まで響き聞こえる。

エレベータ側に光が指し込んでいる。楊海は首をわずかに出して上を確認するとエレベーターは地下1階か2階にあるようだった。

楊海は飛び出て地下四階のドアにへばりつき、内側からドアを開いてライブラリへと急ぐ。

エレベータからライブラリへは2回程曲がればたどり着けたはず。方角は西側。

その前に退路を確認しなければ。まずはこのエレベータに....エレベータの北と南側に階段がある。南階段は1F、北はBF1まであったはず。どちらにせよイザと言うときにエレベータはやめた方がいいだろう。

灰色の壁を照らす蛍光灯は結構暗い。省電力の為か、それとも脳が酸素を大量に消費するように『ライブラリ』が電力を消費しているのか。

楊海は『ライブラリ』の存在は知っていたが実際に見たことはない。もし『ライブラリ』を持ち帰る事が出来るのなら勿論頂いておく。

楊海は足音を立てぬように歩きながら周りを確認する。通気口の位置、数、場所、非常用シャッター、使用可能かどうかわからない二酸化炭素のスプリンクラー....南に折れて西に曲がると『ライブラリルーム』にあっけなくたどり着いた。

別にタグや標識がついていたわけじゃないけど、物々しい他と違う匂いを漂わせるドアがいかにも『ライブラリはここにありんす』と雄弁に語っているようだ。

一応見回った結果、他にも閉ざされたドアを三つほど見つけたがどの部屋も空っぽだった。

念のため部屋の鍵に細工をした。開けようと思ってもちょっとしたコツが必要になる。コツを知っているのは僕だけ。故に、僕だけの部屋....。

再び物々しいドアに立つ。物々しいドアの鍵は電子錠とかのハイテクな物ではなくいたって単純なダイヤルロックと磁石を利用したカムロック。

ダイヤルロックはともかくカムロックは難しい。

いや、違う。上にダイヤルロック、下にカムロック。その距離2インチ程度。コレは何度か見た、恐らく連動式のタイプ。

本来の開け方としてはカムロックに鍵を指しこんだままダイヤルを押しながら数周回せば開くと言う代物、しかしそんな本来の鍵なんか持っているワケが無いので破らなければ入れない。

念のためドアを開けようと試みるが動かない。

カムロック専用のロックピックをポーチから取り出す。何度も何度も型番を変えてやっと接合するだろうロックピックを入れる。

今度はダイヤルを回す....微妙に左右に動かして鍵穴を取り繕う。

指先の手応えが便りで集中したあまり時間を忘れた。

でも、努力の甲斐あって錠前が完全に開くその感触が伝わる。

レバー型のドアノブを引いて回す。部屋のドアにしては珍しくスライド式のバンやワゴン車の密閉するようなスライド式のドアだ。恐らくオクタゴンが改築した際に取り替えたのだろう。

ロックピックを引き抜き鏡で付近を確認した後懐中電灯で真っ暗な中を照らし、進入する。

勿論ちょっと細工をして、な。

 

 

 

#アモーフィラ

 

(優勢は確かに維持している。しかし....なんだろう? この晴れない気分?)

 

コウの判断により総員が『アモーフィラ』後部からポリステスへと拡がりつつローペースで南下する。

ATサイクロプスは下がって代わりに赤っぽい蜂の巣キャノンと緑のガンタワー。メタリックなボディーの死神戦車に薄さ2000倍のイエローなグラップルタンクが目の前に現れている。

勇猛果敢なグラップラーも混ざっているのは言うまでもない

 

「しつこい連中だなぁ」

「しかし狙いが非常に補足しやすい」

 

実際にコウも驚いている。投げ遣りなあの張り紙の作戦がピタリピタリと決まるなんて。

 

『最初に侵攻部隊がアモーフィラを襲撃しそのまま本部とザイロコパへと及ぶ。 本部とザイロコパとアモーフィラを占領してポリステスを叩く。 もしこの作戦に狂いが生じた場合、アモーフィラからポリステスへと移動し、そして本部を叩いてザイロコパを占領する。』

 

今の段階は『アモーフィラ〜ポリステス侵攻』。

『本部』と『ザイロコパ』への侵攻はやめたようだ。

抗争の勝利は如何にして『アモーフィラ』から本部への侵攻を潰えさせるかに尽きる。

当初のオブジェクティブであった『アモーフィラ防衛』は何とか何とか成功した。

そして次に我々がどうやって前に出るか、だ。

(さぁて、どうやって攻めるか)

指を組んで関節を鳴らす。

 

「あいてっ!」

 

ムハンドーフォーの砲弾の直撃は免れたものの砲弾の爆風により<ハースニル・エイト>のリアクティブアーマーが剥がれ落ちる。

 

「大丈夫か七誌?」

「へっ、かすっただけでぃ」

突進するグラップラーを機銃で掃射し打ち倒す。たまーに知らず知らずにキャタピラで踏み潰す事があるから戦後のメンテナンスでキャタピラの内側にちぎれた敵兵の腕や生首がつくとか....

七誌がつい噴出す。

(んな事があってたまるかいアホ)

 

七誌を打ち込んだムハンドーフォーが誰かの凶弾により砲塔が歪み飴のように崩れる。

ちょっと悔しい気がしたが(最初からそうだが)悠長な事は言ってられなかった。

ふと西を向くとアモーフィラの外側からガードが何人か出てくる。

ガードは応援であり、南側進行の合図だと誰もが最初に思ったがその考えは手の平を返したようにひっくり返る。

 

「!?」

 

一斉が一斉に不意を衝かれた感触を覚えた。オクタゴンのガードが持っている対戦車ロケットがハンターの車に向けて砲撃を開始した。

ガードがハンターに向かって襲ってきた。ガトリング砲を持った『AMM』も含めて。

不幸にもこっち側の誰かの戦車がロケットの砲撃により破砕された。

 

「後部にも敵....ってオクタゴン!? 何で!?」

「わからねぇ! ハメやがったんじゃないのか!?」

 

ブラックウルフの砲塔がアモーフィラを向く。

 

「ユウ! 待って!」

 

ハンター側に動揺が走る。目の前のバイアスグラップラーの車両が一斉に潰しに走る。

アモーフィラ外部でオクタゴンのガード同士が互いに攻撃を行っているのが見えた。

 

「恐らく....恐らく....オクタゴンのガードの数名が寝返ったのだと思う....」

「ハメられただけじゃねぇか」

「同意」

 



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