第十七話執筆者:楊海
#ポリステス
緊迫感溢れる宿泊施設に騒がしいマイクの音が響く。
最初はあまりの騒がしさに誰もが殺気だったがすぐに収まりがつく。
マイクのボリュームダイヤルを落として....つんつんとゆっくりマイクを叩き音量を確認して言葉を発する。
(録音スイッチON!)
「みなさーん!お元気ですかぁ!?」
「戦場を駆けるリポーター『カナ・ナノ・カナン』で〜っす! 初めての人も常連さんも元気にコンバンワ〜!」
「初めての人も常連も『カナン』って呼んでね!」
「さぁて、今日も皆さんの声をいただきま〜っす!」
(早速一番近くにいる緑色の迷彩服を包んだ4人組にマイクを向ける)
(こんばんわ)
「こんばんわ」
(名前を聞かせてくれますか?)
「え? 俺たち? 俺たちは『T.F.O.V.』。『征服戦線』って言うんだ」
(構成員は何名ですか?)
「構成員? ん〜。入れ替わり立ち代りが激しいからなぁ。10人くらいかな?」
「ヘッドは誰かって? 今車両の様子を見てる。物凄い面倒見がよくってさ、オレらにとっては父親のようであって神様のようでもあるよ。」
(ではあなた方は何を?)
「オレらは今何やってるって? そりゃ兵士戦の打ち合わせよ」
(熱が入りますね....武運長久をお祈りします)
「武運長久? ありがとう。また会おうね」
(親指を立てる別れる。 次の人はハンターらしき二人組。互いにトランプで遊んでる)
(こんばんわ)
「こんばんわ〜」
「こんばんわ」
(何のゲームで遊んでいるのですか?)
「ブラックジャック」
「ポーカーだけど」
(お二人さんはどんな関係で?)
「友人」
「『熱い』が頭につく」
「そこまでは行かねぇーぞ」
「こっちもだ」
(仲がいいですね)
「まぁ、困った時はお互い様の仲だし....」
「そんな事言うか普通」
(あははは。それでは)
「さようなら」
「ネーちゃんいつかオレと添い寝してよ。」
(笑って次の人へと。その人はがっちりした体型で窓の向こうを眺めている)
(こんばんわ)
「....こんばんわ」
(声を録音するのが好きな戦場リポーター『カナン』です)
「....『レブナー』....だ。綴りは忘れた」
(ハンターですか?)
「いや。ただの死に損いだ。死に場所を捜している。」
(そう言えば私は貴方の話を聞いた事がありますよ)
「へぇ? どんな話を?」
(唯一にして独り。最強にして孤高)
「何か凄いアオリだな」
(でも体と評判が一致してますよ。雰囲気から)
「雰囲気や体格じゃなぁ....」
(物凄いやり手って感じがしますよ)
「ありがとう。でも誉められても何もないよ」
(それでは武運長久を!)
「生きてたらな」
(頭を下げて別れる)
(こんばんわ〜)
(....こんばんわ〜!)
(こんばんわ〜!)
(....わ〜!)
その日一晩中、カナンがあらゆる人をリポートしていた為落ち着けないしまた寝付けない。
あまりのうるささに、金髪の姉ちゃんが斬ろうと試みて数人係りで止めると言う大騒ぎは彼女にとってイイ経験になっただろう。
#屋内駐車場
「うるさいな、あの女....」
「耳に残って寝付けそうにもないよ....」
#アモーフィラ
緊張状態(?)は絶頂を迎え続けている。
東の空が紺色に染まりはじめ月は西の地平線に休息を入れようとする。
北の空下にはアモーフィラを囲むように拡がったハンターの戦車が見え、遥か南の空下にはゲリラ戦法で足止めが出来なかったバイアスグラップラーの進行が見える。
『一体どこからこんなにもの量のガードがいたんだ?』
誰もが一様にそんな言葉を思いついた。
ザイロコパ、ポリステス、アモーフィラの町に今までのオクタゴンからは想像しきれない程のガードがフェンスの内外から出てきてそれぞれの配置につく。
特にアモーフィラ周辺は文字通り、これでもか、これでもかと言う声が聞こえるほどの量だ。遠くから双眼鏡を用意しなくてもわかる....ただ外側に集まっているだけという事も否めないが。
昨日の夜を以って救援の知らせを聞いて駆けつけたハンターオフィスの人間の各ビジター区への進入も締め切り、オクタゴン領地は厳戒態勢が敷かれた。
心なしか周囲を巡回するガードの数がわずかに増した気がする。
そして日は明けるか否かの境目にブラド財閥からの砲撃が始まった。
バイアス・グラップラー側の砲弾はアモーフィラに向けられ、砲撃が開始された。
勿論、衛星『エチオピア』がそれをキャッチしないはずもなく瞬く間にオクタゴン全兵士にその情報が伝わった。誰よりも、正確に。
ブラド財閥にとってアモーフィラは人質のような物だった。
可能な限り被害を押さえて手に入れたい、オクタゴンの重要な拠点。
オクタゴンが本部に次いで重要とする場所。
その為砲撃はアモーフィラの町ではなく外側のバリケードを破壊するように打ち込まれた。
無論、オクタゴンとハンターの連合も黙ってはいない。
ハンターはオクタゴンの指示どおり、アモーフィラ後部に広がって砲撃を開始。
爆風が互いの陣営に広がるがブラド側は確実に距離を詰める。
爆風の最中、アモーフィラ中心部からサイレンが響き渡る。
サイレンが鳴いた数秒後に耳をつんざかんばかりの大音響が大気を弾き飛ばす音が聞こえ、正面に位置するT99-ゴリラが折れ潰れた。
無理も無い。アモーフィラ外部に位置する水素を圧縮し爆発させる次世代技術研究用のガスガンが、秒速約2万km以上のスピードでケシ粒程度のペレットが射出させたのだから。
潰れたT-99ゴリラは1台じゃない。2台、3台と次々に潰れるが行軍を止めない。
ブラド財閥はある程度行軍するとアモーフィラを中心に拡散する。このままポリステスとザイロコパを襲撃するのはすぐにわかった。
ガスガンの射撃が止まり、オクタゴンのガードが建物の影から姿を覗かせる。
オクタゴンのビルの窓からロケットが跳ね跳ぶ。その光景たるやビルと言うより一つのトーチカと化している。
ブラドの長距離砲撃はバリケードからビルへと奥へ高めへと向け、ムハンドーフォーのロングバレルから繰り出される連続的な砲撃がビルに直撃する。
するとバラバラとオクタゴンの兵士が瓦礫と供に崩れ落ちてバリケードの破壊にも役に立ち....皮肉にも更なるバリケードの生成となった。
アモーフィラ進行部隊は度重なる砲撃を潜り抜け、ついにアモーフィラへとたどり着く。
T-99、AT-サイクロプス、ムハンドーフォーの陰から機関銃やスマートボムを構えたグラップラーが飛び出しアモーフィラへと入ろうとする。
対するオクタゴンはドラム缶のような物を背負いミニガンを構えた『AMM』と呼ばれる兵士がガードに護られつつゆっくりと相手を伺い出てくる。
グラップラーの戦闘工兵が駆けだし戦車止めに手をかけた。熟練した手つきで戦車止めを掘り上げ、引き抜こうとすると戦車止めの杭にかけていた肩が高熱を発する。
「ぐぎゃあァァァ!!」
戦車止めが突然破裂して、その工兵は悲鳴を残し、体半分を失い絶命した。
対人地雷『ミミック』。
戦車止めを模した対人地雷。対人以外にもちゃんと対戦車のもある。
<データ照合不一致。排除開始>
瓦礫の陰で右膝を地面につけてショットガンを構えたまま一人のガードが一人のブラド側戦闘工兵を注視する。衛星にデータのアップロードとダウンロードを同時に行う。
ガードが安全装置を外すとショットガンのトリガーを引き、弾丸を戦闘工兵の頭部へと打ち込まれて上半分を消し飛んだ事を確認すると素早く、低い姿勢で立ち上がって別の場所へと移動する。
オクタゴン側のガードなら誰もが持っている『バター・イン・ジャム(Butter in Jam)』。ショットガンの形をしてはいるが実際はグレネードランチャーとショットガンを融合させたような武器。
ガードが判断する状況によって『マーマレード(Murmalade)』と呼ばれる専用の弾丸がグレネードランチャーのように着弾すれば爆発したり、ショットガンのように破裂して高温の金属片が対象を焼き切る事もできる。
グラップラーの一人がガードの影を捉えて低い弧を描くようにスマートボムが投げこんだ。
それは『バター・イン・ジャム』を持っているのとは別のガードがSMGで繰り出すレペルショットでも弾き損ねてしまい、それはオクタゴンのガードに甚大な被害を与えた。
味方の協力を得て戦車止めとフェンスをなんとか突破し、グラップラーがわずかにアモーフィラ内部に侵入しはじめる。
アモーフィラ外部から内部にかけて構造はかなり複雑で複雑に入り組み、戦車は入れない事も無いが、相当狭いので1台が限度だろう。
警戒しつつ見回る。不意に建物の壁が壊れ、『AMM』と呼ばれるオクタゴンの兵士が出てくる。ミニガンはすでに回転を始め発射準備が整っていた。
それが理解出来た時には薬莢がミニガンから飛び散ってそのグラップラーの体は整形不能なほど捻じ曲がってしまった。
『AMM』。本来、彼らの仕事は変異してしまった機械及び装置を物理的に鎮圧するため、幾つかオクタゴンが備えた物だった。
しかし時代の流れか今となってはこうやって多人数相手や都市制圧に活躍するようになった。勿論、幾つかの機械達にも。
『AMM』はスコープの視認を何度も変え、衛星及びリンクされたグループの情報をダウンロードし、相手を的確に感知し、ガードが苦戦している機械兵団の排除を始める。
次第にブラドの行軍が、ザイロコパ、ポリステス方面へと陣形を広げるがアモーフィラ後部を挟むようにあらかじめ陣形を広げて控えていたハンター達に遮られた。
アモーフィラを中心に、戦火が次第に拡大し始めているのはもう、誰もが理解していた。