第十五話執筆者:楊海
#クライムカントリー、ザイロコパ北付近
準備を終え、戦車を走らせる。
イル・ミグラからユゲへ走り戦車渡しを越え、ザイロコパに近づく。
早朝から走りっぱなしで疲れたのだろう、心なしか後ろを走る『あの二人』....『ツインズ・ゴースト』と『ラグナロク』の軌道が安定していないように思える。
アレが揺れている理由を、その一言で済めばどれだけ楽だろうとレオンは考えつつ『ロー・アイアス』を走らせる。
しばらくするとある標識が見えた。クライアント、『オクタゴン』の立てた標識だ。
警告内容を読み取ると標識付近で停車し、5分もしない内に警告灯をつけた車が近づいてきた。
彼らの指示に従って通行許可を得て戦車に乗り込むと南下する。
レオンはスピードを乗せると考え込む。この救援申請は緊急だった。
と、言う事は加速度的にハンターオフィスに伝わった....当然ながらコウ中尉達にも連絡がきているだろう。
そうなるとコウ中尉達一連はこのオクタゴンの支配域一連のどこかにいる。いずれ会えるだろうしまた会うことにもなるだろう。
ステアリングに覆い被さるようにレオンがうつむく。この状態で中尉達に面を向けてしまうのか。
卑下される事は無いだろうと思うが....バツが悪い。気分が悪い。
進級後に防衛の失敗。賞金首相手に。
しかもその直後に誰かによってその賞金首が検挙されてしまい、その上町の再建に賞金が全額当てられるわ奪われた物が可能な限り取り戻されるわで、なんだかんだとハンターオフィスの信頼を落としてしまった....。
しかし、この任務を成功する事ができるのなら、と思うとそのようなネガティブな気分は寸なまでに切り捨てられた。
さぁ、クライアント『オクタゴン』の支配するザイロコパはもうすぐだ。
#オクタゴン本部
オクタゴン本部。それは金網と戦車止めに囲まれた半壊しているビルだ。
ビルは地上は2階までしかなく、3階以上あるビルを2階から上を切り崩したような形をしている。
地下は今の所4階までありオクタゴンの人間が発掘作業をしているが今の情勢で手が休められているのが実情だ。
構造からわかるとおり、元は大型高層ビルだったのだろうが大破壊の影響で沈んでしまった上、ビルの上部が破壊されてしまった。
オクタゴン本部の入り口はもともと窓だった場所を破壊してドアに組替え、エレベーターも上2階にウィンチを取り付けたりと外部内部と供に大幅な改築が施されている。
オクタゴンの本部は高層ビルであったことを物語るように、瓦礫と化したビルの上部が石塊となって本部の西に斜めに埋まりつつ横たわっている。
ビルの地下1階はジャンクションのような構造になっている。
本部から各町に地下トンネルを辿って移動できるよう、対角線を結ぶようにトンネルが通じているのだ。
オクタゴン本部地下3階で男がボタンを押してエレベータを呼ぶ。
ウインチが引き出される音が聞こえ、蛍光灯で照らされたエレベーターの空間がどんどん影となり、やがてエレベーターが降りる。
エレベータ地下3階に到着すると網型のドアを横へ押す。
「いちいち手で開けないといけないのが不便だな....」
エレベータの前に二人の男がいた。
一人はオクタゴンの兵士の服装はしておらず、背中には服を覆った黒いケープ越しにオクタゴンのエンブレムが縫い付けられていた。
薄くてメッキが剥げたような金髪で髪と同じ色のヒゲもたくわえていた。
服の袖からエクソスケルトン独特の不自然な骨格が浮き上がっている。
組織『オクタゴン』では重要な階級、と言うより最高階級の『司書』の役職についているその人『ミダス』だ。
彼はオクタゴンの市民から兵士まで全てを知り尽くし、掌握している。
もう一人は大破壊前に存在していたと言われる『ドイツ』と呼ばれる国の陸軍親衛隊の制服を着ている。
『オリシス・D・グレイドバラン』
彼は数対のアンドロイドを連れ、ガードに頼んで本部に接近。
その高いアンドロイド技術をミダスに買われ、オクタゴン兵士の養成や作成、改良を行っている。
今や彼はオクタゴンでの幹部の一人だ。
ベレー帽をかぶってミダスがドアを開けているのを横で見守っている。
「そう言えば我々の兵士の件なのだが」
ミダスが乗り込みつつ話し始める。
「訓練はうまくいっていますか?」
「上々....かな。生身よりも飲み込みが早い。成果の方は今夜辺りにでも出るかな」
オリシスがドアを閉めると地上2階へのボタンを押す。
「それとだ。素体がかなり少ない。ブラドは一週間後にでも動き出すだろう。あの数では優秀なオクタゴン兵でも難しい所」
「そうと思いましてハンターによる救援を呼びました」
「....10人、20人呼び込んだ所で勝てる数ではないとわかってはいるな?」
一呼吸置くとミダスは口を開く。
「承知の通りです」
エレベータが減速を始め、しばらくすると停止する。地上2階に辿り付いたのだ。
エレベータから外へ出るとオクタゴンの兵士が一斉に気をつけの体勢を取り、敬礼する。気持ちの良い足音だ。
青いタイル張りの床を踏みしめ南へ歩く。崩壊したビルの壁は胸壁を思い起こさせる。
ザイロコパとアモーフィラに挟まれた荒野の向こうにソルの町にあるデビルズタワーが見えた。
「....今夜、ですか....」
「そう。今夜」
#ポリステス
レオン一行はザイロコパを通り過ぎ、ポリステスへと向かう。
本当に加速度的に伝わった、と言うのが肌で感じた。
ザイロコパの施設が満員でポリステスへと更に移動する事になった。
ザイロコパを通り過ぎた辺りだろうか、白いティーガーが追っているのが気になる。
「うぉーい」
無線で通信が入る。この声はゼクター....。
「何も無視して通り過ぎる事無いだろう。冷てーなー」
「いや。何も無視していたわけじゃないのだが」
「こっちはそっちがバリバリに見える所にいたんだぜ?」
「気付かなかった」
「うぉーい」
残念がったようなゼクターの声が聞こえると<スレイプニル>がレオン一行の後ろにつく。
ポリステスへ近づくたびに心臓が高鳴るのがわかった。
勿論、レオンはその事に気付き、原因もわかってはいる。
「あー....。気が重い」
「何があったんだ? ヘンだぞ」
「いや、ちょっと激務に疲れて....な。七誌」
「ああ。疲れたな」
「それは大変だったな」
「まぁな。」
一呼吸置いてレオンが強調した口調で喋る。
「仕事だし」
それに反応したゼクターの笑い声が聞こえる。
「熱心なのはいいことです」
(んなバカな....)
ポリステスの宿泊施設が見えると減速して降車する。
レオンが降り立つと皆が一斉に敬礼して出迎える。
その中にはレオンの一番合わせたくない顔も見える。ランがそれに対して不思議がっている。
「....任務を....」
コウを前に言葉が続かなかった。
「ココで取り返しましょう」
「....だな....」
暖かさのこもったコウの台詞に、いくらか気が楽になった。
その日の夕方に信じ難い程の大金がハンターオフィスに振り込まれたと聞いて、誰もが歓喜した。
勿論、ハンターオフィスに登録されている各人にそれぞれ『適正に』振り分けられるのだが、それでも十分歓喜に値するくらいの金額だった。
最初は商業概念、経済概念が著しく異なるオクタゴンにどうしてこれまでの大金があるのかと疑問に思ったがそれは最初だけで結局は誰もこの事に気を留める者はいなかった。
もしオクタゴンへの助勢が無事に終われば、更に報酬金が支払われる。
この前金を貰って帰ろうかと企む人間もいたがプロの意識とか、罪悪感とか、まだハンターオフィスの財布の中だからとかで帰る人間はいなかった。
七誌もこの歓喜の中の一人で、レオンに借金を返してもまだ残る。
そして宿泊施設のある一角に張り紙が張られていた。
それには地図が描かれており、ハンターオフィスが位置して欲しい場所、やって欲しい事、敵が如何にして進行するかを図面で指示している。
この掲示物に誰もが唖然とした。打ち合わせではなく、アバウトに、無言で、でーんっとこうやって宿泊施設の広い壁に貼り付ける....。
オクタゴンよ。幾らなんでもこれはやり過ぎじゃないのか....?
不信感を誰もが抱きはじめた。