第十四話

執筆者:楊海 

 

#『ポリステス』 

 

『オクタゴン』。

大破壊以前から存在していた、ブラド財閥と敵対していた組織だ。

大破壊以前はあまり目立たなかったが大破壊後になってブラド財閥の行動が過激になるとその姿が公に出始めた。

少数だがその軍事力のみで計るならばどこの組織の追随を許さないだろう。

彼らの支配下には3つの町がある。

南西の『ポリステス』。東北の『ザイロコパ』。そして『南東にアモーフィラ』が。

地図で見るとこれら町の位置はほぼ正三角形の形になっている。

それぞれの町の対角線上にオクタゴンの本部が置かれている。

そして地上とは別にそれぞれの町が三角形を作るように地下道が作り上げられている。

無論、その地下道を利用して本部にも行けるのだがそれは関係者以外行えない。

支配下の町とその周辺に限り、オクタゴンは偵察衛星『エチオピア(Aethiopia)』で監視している。

オクタゴンの兵士は上空から送られる地図や情報を頼りに監視や偵察を行う。

オクタゴンは外部との接触を嫌い、外部の人間向けの場所と言えば各町の一角にあるビジター区だけだ。

勿論、ザイロコパやアモーフィラのビジター区にも近づけるだろうが聞く所 ポリステスよりもはるかに小さく、逆に立ち入り禁止区域の方が大きいそうだ。

オクタゴンの町を見て驚くのは店が存在しない事だろう。

町の人間はオクタゴンに奉仕とすると言う条件で無事を約束されている。

人が工場や地下に入り、仕事を行いそれぞれの宿泊施設へと戻る....ここらへんも蜂の生態と変わりが無い。

むしろここらへんまで蜂に似ているとある種の皮肉すら感じる。

ポリステスはオクタゴンで唯一外部との接触をメインとしている町だが店どころか自販機すら無いため取引ができない。

ここでの外部者向けの施設と言えば無人の駐車場と専用の無人の大型宿泊施設だけだ。

ポリステスに限らず―――どこもそうだが―――これだけしか外部者向けの施設が無いとオクタゴンは外部との接触を嫌悪どころか禁忌しているの方が適切かもしれない。

そして町にしては珍しくもトレーダーと敵対している。

本当の理由はわからないが噂によるとトレーダーを敵視する理由は『トレーダーはブラドとは友好的であるから』が第一の理由で『商業の開始により技術の漏洩の防止』が第二の理由だそうな。

何よりもオクタゴンがブラド財閥と対立しているのが大きい....。

これまでオクタゴンとブラド財閥は何度か交戦している。 今回はオクタゴンの偵察衛星及び斥候がブラドの大規模な行進をキャッチした。

幾度かオクタゴンはブラドの襲撃を退けてきたが今回のような大規模な行進は大破壊以後初だと言う。

危険を感じた組織はハンターオフィスに救援を要請し今に至る。 

 

「寂しい町並みだな....」 

 

ポーンが呟く。ポリステスに到着した一言目がそれだ。

コンクリートが埋め込まれたように舗装された地面。

その舗装された道は東へ北東へと伸びそれぞれの町へと繋がっている。

恐らく他の町も同じように繋がっているのだろう。

辺りに目を向けると....そこらへんに張られた警告標識や金網、戦車止め、パトロールを見るたびに、威圧感や脅迫感でうんざりする。

警告標識はどれも『殺傷性のある武器』やら『立入禁止』だけで人間性の微塵も感じない。

金網の向こうにはボコボコと大きい建物や小さい建物が寄り添うように設立され、ここの市民がちらちらと見えるが顔に生気は無い。

良い顔もしてないし悪い顔もしていない。まるで無表情で、人形とも取れる。

他にも応援に駆けつけたハンターがコウ達の周囲にも見えるが....自分らと同じ、ここの空気にうんざりした顔だ。 

 

「退屈を町にしたらこう言う形になるのですかねぇ....」 

 

ユウが呟く。 

 

「危険を排除するとこう言う形になるのだろう」 

 

ユウのなんて事の無い言葉にコウが反応する。彼女のセリフには皮肉がこめられているのが聞いて取れる。 

 

「できる限り、長居したくないですね」

「誰でも同じさ」 

 

 

 

#ポリステス西クレバス付近 

 

やがて日が沈み、夕方の翳りが見え始めた空の下、クレバスから潜望鏡が伸びる。

辺りを慎重に確認すると....潜望鏡が引っ込み、かわりに人影がひょっこり出てきた。

賞金首のその人。楊海が。

クライムカントリーを出て西側に数十キロものクレバス帯が続いている。

それはまるで絨毯を引っかいたかのような爪あとのように南北に裂け目が連続して、だ。

まともに外が歩けない楊海は『某所』からクレバスに出て慎重に、『適当な足場』まで降りた。

適当な足場まで辿り着くと巨大なトンネルが南北にそれぞれ伸びている。反対方向の足場は見えない。

普通にクレバスを眺めているのでは絶対に気がつかない。楊海はそのトンネルを歩き、ポリステス側へとそっと近づいていた。

『適当な足場』にもまだ深く崖が切り立っている。 落ちたらまず命は無いだろうし、更に降りようと思ってもトンネルが何らかの拍子で崩れそうなほど脆かった。

現に楊海は降りる途中にハーケンが抜けたり、歩いている途中に足を踏み外して何回か落ちそうになったり壁が崩れて生き埋めになりそうになったりともう二度とココを歩くまいと固く誓ったほどだ。

ふと足を止めて空を見上げると裂け目裂け目の地面がまるで橋の用になっている。

神秘的な光景に息を呑み、しばし今の状況を忘れる。

水が流れているわけでも無し、このクレバスがどうしてこのようなトンネルを作るほどになったのか。

どうしてクレバスが出来たのか。楊海は疑問を持った。 

 

(まさかアリが頑張って掘ったわけじゃないよな....) 

 

さてさて、降りたはいいが今度は登らなくちゃいけない。崩れそうな壁を慎重に登攀し、半日以上をかけてやっと登りきった。

潜望鏡を組替えて望遠鏡にするとピントを合わせながらポリステス付近を見る。 

 

「大量の戦車....なんでオクタゴンの町に?」 

 

じっと戦車を見つめると、個々の戦車のデザインが統一されていない事がわかった。

レンタルタンクでなければ各派閥の持ち物でもない。

導き出した可能性は戦車はハンターオフィスから派遣されたハンター達の戦車。 

 

「しかしハンターだとしたら何故オクタゴンに?」 

 

望遠鏡を収める。

予想外の出来事に、計画に大きな変更を加える事になった。

オクタゴンに自分の手を先読みされたのだろう。

彼らはハンターまで動員して警備を強化し、自分を捕らえるつもりなのだ。

楊海の唇が歪む。いい挑戦だ。ここまで自分を問題視したとなるとそれに応じなければなるまい。

ハンターまで動員しても、今どれだけ警備が薄いかを知らしめてやるいい機会だと楊海は思った。

溜息混じりに首を横に振って呟く。 

 

「ふぅ....僕の授業料は高いヨ?」 

 

楊海は再びクレバスに隠れ、計画を練り直す。

久しぶりの大仕事に、気持ちがいやがおうにも高揚する....。 

 



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