第十二話執筆者:楊海
段差に乗り上げてはまた降りる。そんな繰り返しでトラックはガチャガチャと鳴り、エンジンの爆音が林に響いた。
そのお陰で木陰でキャンプを張って眠っていた人物が目を覚ました。
その人物は楊海。
賞金首に揚げられまともに歩けそうにも無いのでわずかな間、ここで身を隠していたのだ。
トラックを目で追った。それは木を数本隔てた彼の目の前を通り過ぎ、去って行く。
木と木の間にでき上がった車が一台程通れる野道をトラックが三台、並びながら走っていった。
だが道と言っても整備されているわけではなく、多めに見て道と言った程度で実際は草が生い茂って所々に岩や、少し掘られてへこんだ所がある。
『コレが道ですよ』と言われても、普通には通りたいとは思うまい。
「フォーカード?一仕事でも終えたのかな?」
あくびのように体を伸ばしつつ、深呼吸する。
「朝っぱらからご苦労だなぁ....。」
(あんまりうまそうな金の匂いはしなかったな....。けど、予感はする。)
心の中で呟くと立ち上がって缶詰の空き缶をビニールにまとめて放置する。
道に出てはまた林に入るの繰り返しでトラックの後をつけることにした。
30分くらい歩いただろうか?林の奥深くで銃声と怒号が聞こえ始めた。
(....抗争か反乱か?)
楊海はブッシュに潜み、頭だけを出す。
危険な予感がしたので頭を低くしてカバンから潜望鏡を取り出す。
ブッシュから潜望鏡を伸ばし、レンズを覗いて辺りを確認する事にした。
(アレはワルゲリョ....そしてフォーカード。そしてアジト....っと。)
コンクリートを緑色に着色した広く、大きく平べったい建物が見える。
ブッシュに反し、建物の周りは茶色の土がきれいに、平らになっている。
更に奥にも小さいが同じ建物が見える。頑丈に閉ざされているところ見ると倉庫なのだろう。
どうやら昔の建物をどっちかがアジトに仕立て上げたらしい。
建物にはフォーカードの人間が見え隠れし、ワルゲリョ達と交戦している。
更にワルゲリョの外側には先ほどトラックに乗っていた連中が。
囲んでいたはずのワルゲリョが板ばさみになっている。
体勢で言うならフォーカード側が優勢に思えるがワルゲリョ達の方が数が多い。
この勝負の行方はよくわかりそうにもないし、楊海にとってはどうでもよかった。
(倉庫がアジトが近くにあると言うことは....定番の予感。)
楊海は潜望鏡をしまうと土を掘り顔や腕、足に塗る。
バッグをブッシュに隠しておき、身を伏せつつ、滑り込むようにアジトの横手から裏手へと近づく。
(目標は倉庫。交戦中の人間に感づかれぬよう....って無理そうだな。)
銃声や悲鳴にかき消されつつ叫び声が聞こえる。
ちょっとだけ頭を出して覗くとワルゲリョの何人かがアジトに入り込むことに成功したようだ。哀れ、フォーカードには勝ちの目が薄くなった。
この時点でワルゲリョは20人前後、フォーカードは4人か5人ぐらいだろうか?
楊海は一度ブッシュへと戻って倉庫側に移動、アジトから見えぬよう倉庫に近づく。
ワルゲリョは倉庫には目もくれず、アジトへと移動したようだ。アジトの窓を破り、グレネードが飛ぶ。
機関銃の銃口が見える。どちらかと言うとワルゲリョは狙ってはいない。むしろ当り散らしている。
フォーカード側はそれでも冷静にアジト側の窓を狙っては機関銃で撃っている。
ワルゲリョがアジトに入ったと言うことは恐らく、フォーカードの残存兵力はトラックにいる5名だけだ。
しかしその5名相手にワルゲリョはてこずっている....。
当り散らしを食らわぬよう祈りながら移動し、やっと倉庫に近づく。
アジトから見て倉庫の向こう側の壁に張り付くよう楊海は移動した。窓を見る。
何とか入れそうだ。
周りを確認しつつ、左腰に携えている道具袋から糸鋸を取り出し、金網に巻きつけては切りの繰り返しで窓の金網を破る。
次にカッターナイフのような刃物を取り出し、ガラスに傷をつけ、鍵を開ける。最後に頭を入れ、肩をねじ込むように押し入れ、潜入する。
砂の匂いがする。倉庫内の照明装置は窓から伸びる光のみだった。
薄暗くてよくわからないが、触感でわかる。思った通りだ。
タンス、剥製、金庫、冷蔵庫、人形....等、ガラクタの山でも連想するような物品が倉庫一杯に、乱暴に寄せ集められている。
倉庫に集められたこれらは今まで強奪した物だろう。
足音を立てぬよう慎重に歩く。彼の勘だが、金や宝石、それに個人的に興味を引くような物はこっちには無い。
多分向こうのアジトだろう。
楊海は倉庫の隅に移動すると壁を利用して天井に張り付き、部屋を見回す。
(さて、こんなにの量をどうやって持って帰ろうか....)
交戦中の連中は必ずどっちかが滅びる(恐らくフォーカード側)から放置は決定。
運搬手段ならフォーカード、ワルゲリョのどっちかがトラックがあるからそっちから借りればいいとして....問題はどっちかがアジトに残ると言う事実。
天井から降り、楊海は破った窓から慎重に外へ出る。
何時の間にか銃声が止んでいた。
もう一度ブッシュに隠れ、遠巻きにアジトを見る。
ワルゲリョとフォーカードの連中の死体が次々とアジトから出てくる....フォーカードが勝ったのだろうか?
大きな男が出てきた。普通に立っているのに体が左に傾いているように見える。
よく見ると....右腕がエクソスケルトンだった。
ワルゲリョの死体を掴んでは無造作に捨てる。
貫禄からしてフォーカードのボスだろう。結局相当な数のワルゲリョを、彼一人が片付けてしまったようだ。
感覚を研ぎ澄ました。今、ここ周辺....100mくらいでは僕と彼だけだ。
長い間盗賊稼業をしていたからこの勘は狂うことはない。
この勘だけは絶対の自信がある。
楊海は黙ってそう自分に言い聞かせた。
ワルゲリョの死体を次々と運び出す彼を見守る。
彼はアジトに入るとそれっきり出てこなくなった。何があったのだろう。
アジトの裏手に近づくなり壁に背を張り付け横ばいに歩き出す。
慎重に歩いてアジトの東側の壁にある破れた窓から覗こうとするとエクソスケルトンの手が飛び出した。
驚いて一瞬立ち止まる。手が窓に引っ込む。すると今度は壁が鈍い音と共に震えた。
2、3回震えると土煙と共に壁が崩れて機関銃を持ったゴンチャロスが出てきた。
「ネズミが....ッ」
ゴンチャロスは辺りを見回すがネズミの姿はもういない。
ネズミを探し出す為にアジトの周辺を回り始める。
「ネズミがぁッ!」
怒号と一緒に数発程威嚇射撃をおこなった。
楊海はアジトの屋上の中心でうつ伏せ、チャンスを待っていた。
(さて....どう処理しよう?)
楊海はゴンチャロスの容貌をイメージした。
左眼がスコープになっている。当然ながらアレになんかの細工でもしているのだろう。
サーモグラフィー、X線、超音波イメージ投影....想像だけではどんな風に装備していようが無理は無い。
いつもだったら『仕事着』を着るのに、今回は着ていない。見つかるのも時間の問題だろうか。
でも冷静に考えるとあのスコープにはたいした仕掛けは無い。
なぜならば自分が屋上にいることがまだ彼にはわかっていないのだから....。
そのままの状態で倉庫に向け移動する。倉庫に入ってちょっとした活劇でも繰り広げてやろうと考えた。
感覚を研ぎ澄ます。自分が降りないうちにあいつが屋上にやってきたら全ての計画は台無しになるからだ。
金属とコンクリートが叩きつけられる音が聞こえた。
音がする方向は楊海の反対側、つまりは東側だった。
急いで振り向きながら立ち上がって後ろ向きにステップを踏む。
機関銃が屋上に乗る。左足が屋上に乗る。そして体が屋上に乗りあがり、ゴンチャロスは屋上に登りきる。
その時には楊海は体をねじってアジトの屋上から飛び降りた。
「待てい!」
ゴンチャロスは不意を突かれた感触を覚え、登ったばかりなのにまた降りる。
北に走り、アジトの角を曲がると楊海が倉庫に正面から侵入するのがわかった。
ロックしてあったのに、手早い奴だ....。
慎重に倉庫正面に近づくと、金属製シャッターがわずかに開けられてた。
ゴンチャロスは機関銃を構えるとためらうことなく引き金を引くと弾丸がシャッターを撃ち抜き、シャッターがどんどん変形していく。
ガンガンと言う音が林に響き渡る。
しばらく撃ちっぱなしにすると機関銃を降ろし、見る。
もう撃つところは無いと言えるほど満遍なくシャッターを撃った。
穴が空き、所々弾丸に引き裂かれて歪んでいる。
機関銃でシャッターを殴った。
何回か叩くとシャッターが倉庫の奥にちぎれ飛んで入った。
砂煙が立ちこめるがじきに止む。外側から倉庫の中を見回す。
穴ぼこになったり金属片が突き刺さったりしている戦利品が倉庫に転がっている。
楊海の姿が見えない。どこへ行った....?
ゴンチャロスが倉庫に足を踏み入れると上からフラッシュグレネードが顔面に押し付けられ爆発した。
視界が一瞬にして封じられ、目を覆うと屈みこむ。
見方を変えると、もんどりうってのた打ち回っているようにも見える。
「ぐっ....ネズミが....ぁっ!!」
喚きながら左腕で顔を覆い、機関銃を払うように振り回し撃ちまくるが全て弾丸が壁や天井に当たった。
天井から飛び降りた楊海はしゃがみ、左足を軸に回転すると右手を蹴り上げ機関銃を落とす。
間髪入れず右腰のホルスターから拳銃を取り出し一旦エクソスケルトンの関節に押しつけ、離す。
そして10cm程離すと引き金を引き金属が突き刺さるような音が響いた。
銃をホルスターに直し、飛び上がって入り口近くの天井の隅に足で突っ張って落ちないようにへばりつき様子を見る。
左手で顔を覆ったまま立ち上がり、楊海を探し回る。
エクソスケルトンはだらんとしたままで機能が停止したようだ。
楊海は両手を組み、落下する。後頭部に向かって両手を組んで振り上げ渾身の力をこめて降ろす。
命中するとゴンチャロスは腰をかがめた。
左腕を伸ばし、後頭部の髪を掴んで顎を上げさせる。顎に向け、右手で掌低を打ち込むと同時に掴んでいた髪を離した。
ゴンチャロスはそのままあお向けに倒れ気を失った。
「やったか....?」
ゴンチャロスから離れると緊張の糸が切れ、自分も仰向けになる。
しかし最後の仕事がある事を思うと楊海は立ち上がってホルスターから銃を取り出した。
義手に向け、拳銃の銃口を向けた。
「人殺しはしない。けど。死ぬほど苦しい目には遭ってもらうよ....。」
#イル・ミグラ民家
「....っ!」
レオンは目が覚めた。あの時に眠ってしまい、一日が過ぎたようだ。
「あぁ。おはようございます、レオンさん」
看病していたランが頭を傾ける。
「挨拶はいい!それより山賊....。」
「山賊なら....その....昨日連絡があって。」
「どんな連絡だ!?」
「落ち着いて聞いてくださいよぅ。えっとですね、昨日レオンさんたちが眠った2時間後くらいにですね、トラックが2台、やってきたのですよ」
「トラックが2台....?で、その後は?」
「なんか一台は無人で、もう一台は山賊が縛られたままシートに放り込まれていたのですよ。」
「で、その山賊は?」
「なんか昨日襲ってきた山賊の親玉なのだそうですよ。で、もう警戒態勢は解かれましたよ。」
「親玉ぁ....?なんでまた。」
「で、もう両方のトラックに言えることなのですけどね、なんか荷台に山ほどの荷物が積んであったのですけれどここら辺の盗品らしくて今分配している最中です」
「で....賞金首は?」
「トラックを調べたらダッシュボードに紙があって『町の再建費か飲み代』にしてくれとの事です。」
「で、ゴンチャロスは死んだのか?」
「なんか調べると大量のトランキライザでも吸い込んだらしくしばらくしたら意識を取り戻すとのこと。」
「死んではいないのか....。」
「でもハンターオフィスの人がどこかへと持っていきましたよ。」
「だろうねぇ。そう言えば七誌は?」
「まだ意識不明です。」
「そうか....。」
レオンは息を吐く。
安堵と不安の篭った、複雑な空気が出ていく....。