第十一話

執筆者:楊海 

 

大急ぎでレオンが双眼鏡を持ち山賊団を見る。

 

「見たところ全てハーフトラックか?その車両が4〜6両、歩兵10名と言ったところかな?」

 

レオンは双眼鏡を降ろしてはもう一度見る。

戦車のエンブレムが見える。角を丸くした長方形が4つ重なって並べられ、一番右の長方形に『4』と書かれている。

 

「....フォーカード。新手の山賊団か....。」

 

双眼鏡を再び降ろして再び全員を見る。

 

「小規模....と言いたい所だが....あいにく戦車はドック。」

「がんばりましょう!」

 

エイルの無責任な応援にレオンはムッとする。

 

「町の人間の避難が先だ。七誌....アレ?」

「アレ?」

 

全員が見回す。ついさっきまでいた七誌の姿はもういない。

 

「あ、アレ!」

 

ランが指を刺す所には七誌の姿が映っている。

 

「....知らんぞ。もう....。」

 

レオンは住民の避難を急がせることにした。

 

「ワルゲリョどもが手を引いた今、ワシらのモンにするチャンスじゃあ!」

 

改造されたトラックの荷台から男が絶叫を上げ統率する。

男の右腕が義手で右肩が左肩よりも張っている。エクソスケルトンの義手だ。

そして顔の左上半分が布で覆われていた。

左目があるべきところには赤色のレンズが突き出ている。

男の名前は『ゴンチャロス』。

山賊団『フォーカード』のヘッドでここ一帯を支配するワルゲリョ一味とは縄張り争いで対立していた。

その縄張り争いの受け巻き添え及び幾度かの襲撃を受けた市民がハンターオフィスに報告。

現在彼の首には賞金50000ゴールドが掛けられている。

フォーカードがイル・ミグラを襲撃したのは昨日の騒ぎの一部始終を仲間が知らせたからだろう。

 

「何としてでもココを取るぞ!ココを足場にすればワルゲリョどもに一泡ふかせれっぞ!行くぞ野郎ども!」

 

怒号が聞こえる。賞金首『ゴンチャロス』率いる部下たちはそれぞれの配備につくと一斉にグレネードランチャーを町に向け撃ち始めた。

白煙を上げ、グレネードが町に打ち込まれる。

爆発音と家屋の燃える音が山賊たちを和ませる。

爆発からまるで間欠泉のように破片が飛び散る。

 

「いいぞ!いいぞ!もっと打ち込め!」

 

グレネードを打ち込んでいる最中に坂から物凄いスピードで走って駆け上がってくる人影が見えた。

子分がそれを見つけるなりゴンチャロスに叫ぶ。

 

「お頭!何か激しく死にたいバカが向かってきますぜ!」

「何〜!?」

 

ゴンチャロスが顔を前に出し、その人影を確認すると唇を強くかみ締め、大きく開いて叫ぶ。

 

「あの死にたいバカを激しく死なせろ!」

「押忍!」

 

グレネードランチャーの発射口が死にたいバカに向けられ狙いを定める。

 

「さぁ!血を求めて飛べ!」

 

七誌がジェットサーベルを投げると同時に一気に転げ落ちる。

グレネードランチャーの命中を避ける為だ。

ジェットサーベルは主の命令に従い獲物を求めて放たれる猛禽を連想させる勢いで飛んで行く。

グレネードランチャーが発射された。それと同時にジェットサーベルが敵陣営に辿り着き風斬り音を上げ、何人か歩兵に衝突する。

しかし距離が遠く歩兵に致命傷は与えられなかった。

だがプロテクターを装備していない歩兵にそれなりに大きい傷を負わすことと隊列を崩すことには成功した。

 

転がって体制を整える七誌めがけてジェットサーベルはブーメランのように戻ってきた。

 

今度は上体をねじり、敵から見て右側に走る。

歩兵は隊列を整え七誌に向かい再び構えた。

その時だった。歩兵の一人が頭を撃ち抜かれ倒れた。レオンのPSG-1改による攻撃だ。

 

「なんじゃあ!?」

 

ゴンチャロスは倒れた仲間を見ると攻撃を止め、町が見えなくなるまで下がるよう指示を下す。

トラックの荷台からそっと飛び降り車両の陰に隠れ、倒れた仲間を遠巻きに見る。

直感で何者かにライフルで撃たれたと判断した。

 

「坂下にえれぇ狙撃手がいるもんだのぉ。」

「どうします?お頭?」

「もうちょっと下がれ。オレはあの死にたいバカを叩く。お前達は....!」

 

ゴンチャロスが言葉を呑むと全員が坂側に強い殺気に感づき、見る。

そこから七誌が飛び上がり、同時にジェットサーベルを舞わせたのだ。

ジェットサーベルは部下の肉体を切り裂き次々と戦闘不能にさせていく。

それと同時に部下のトラックをナマス斬りに。

部下は悲鳴を上げ無傷な車両の陰に避難する。

ジェットサーベルが七誌の手に戻る。

七誌はジェットサーベルを盾のように構え、ウージーを握った。

七誌は周りを見た。車両は皆4輪トラックに機関銃や大砲を積んでいるのがわかった。

もう一度車両に狙いを定めてジェットサーベルを投げると同時に坂へとバックステップで降りる。

 

「ヒィッ!」

 

部下が伏せジェットサーベルをかわす。

そして刃が避難しているゴンチャロスにジェットサーベルが飛んで行く。

しかしゴンチャロスは動きを見切ると気合とともに義手の手刀を振り下ろし、叩き落した。

勢いを失ったジェットサーベルが地面に落ちると拳骨を作ってジェットサーベルを叩き潰す。

 

「なめた真似だな死にてぇバカが!」

 

トラックに据え付けてある機銃を無理やり外し、立ち上がる。

 

「動ける奴ぁ何人だぁ!?返事できるかぁ!?」

「わっ....私です....。」

 

頼りない返事が4つほど聞こえた。15人いた兵隊がもう4人になったのだ。

 

「....フンッ!」

 

鼻息を一気に吐いた。

部下は皆、戦闘意志を無くしている事に悟ると崖に機銃を向ける。

 

「出てきやがれ!死にたいバカなんだろ!」

 

機銃を発射する。坂下数メートルの斜面で伏せている七誌に向かって砕かれた石が降り注ぐ。

 

「お頭!後ろ!」

 

ゴンチャロスは後ろを振り向いた。何時の間にか坂を登り、レオンが後ろをとっていたのだ。

ベレッタM8000改-神楽-が火を吹いた。ゴンチャロスは反射的に義手と機銃を盾にして弾丸を防ぎレオンへと突進する。

 

(えっ....!?)

レオンは身をたじろぎつつも距離を取ろうとして後ろへ半歩引く。

その次の瞬間にはレオンの両足が地面を離れた。

ゴンチャロスは機銃を捨てて長い義手を利用してレオンを引き寄せると左腕で背中を掴み、右腕は襟首を掴んで持ち上げたのだ。

体をねじり、トラックのドアにレオンを背中から叩き付けるとレオンは衝撃で一瞬息が苦しくなった。

 

(ぐぁっ!)

 

声が出ない。

もう一度ゴンチャロスはレオンの体を持ち上げ、一歩か二歩ほどステップを踏み出すとレオンの体が宙を舞った。

突然風が強くなった。太陽が見え、靴が宙に浮かんでいる。下にはイル・ミグラが見えた。

自分の身に何が起きたのか理解するとレオンは屋根を突き破ってイル・ミグラの民家に落下した。

七誌は投げ飛ばされたレオンを目で追う為、上半身を反り起していた。

 

「おい!」

 

声のする方向に顔を向けると次には七誌が髪の毛を掴まれ、猫のように持ち上げられてトラックのドアに背中から投げ飛ばされた。

視界が揺れたまま正面を見る。

ゴンチャロスが向かってくる。ゴンチャロスが右手を伸ばしてくる。ゴンチャロスが襟首を掴んでくる....。

持ち上げられ、また叩き付けられる。さっきよりも強く。

意識を失いかけた。しかし何故か視界がはっきりしている。白っぽい拳が向かってきた。

思わず首を傾け、何とかかわす。ゴンと言う鈍い音がした。

あと数センチで顔面が奴の殴打によりへこんでいるドアと同じ運命をたどる事に....。

七誌はまた持ち上げられると今度は顔面から部下の死体に叩きつけられた。

 

「よく見ろ!貴様が何をやったのかを!」

 

叫び声が聞こえる。もう一度顔面から叩き付けられそのまま顔が埋められ、無理やり死体の切り口にねじ入れる。

柔らかい物が額に当たる。息が出来ない。

鼻から息を吸おうとすると血が入り込むと同時にひどい匂いがする。口を開けば鉄の味がする。そして口を閉じると何か筋張った硬いような柔らかいような物を感じる....。

じたばたと七誌はもがくが彼の怪力の前では何の助けにもならない。

意識が遠のく。もがく力も無くなる....まるで宙を浮いてるかのように三半規管でも狂ったような感覚を覚えると目の前が本格的に暗くなった。

そのまましばらくねじ込んだままにすると七誌の動きが止まった。持ち上げると七誌の顔はトマトケチャップでもぬったくったかのように赤くなっていた。

 

「おい!」

 

頭を掴んだまま七誌を振るが生気も無く、だらしなく腕をぶら下げたままの状態から動こうとはしない。

 

「....ケッ....。」

 

吐き捨てるように呟いた。

そのままにしても重いだけなので、ゴンチャロスはぶっきらぼうに坂に投げた。

七誌はそのまま坂を転がっていく....。

 

 

「ニーちゃん大丈夫か?」

 

心配そうに中年の男性が声をかける。

仰向けになっているレオンが息を荒げて体を震えさせ、何とか立ち上がろうとする。

男はレオンの上体を持ち上げ、起こすのを手伝った。

レオンは言葉を出そうと口を動かすが声が出ない。

周りを見るとあちこちに木の板やガラスが散乱している。

 

「あ....ああ....何とか....。」

 

背中に激痛を感じた。

どうやら背中に携帯しているPSG-1改が仇をなしたらしい。

 

「立た....せ....くれ....」

 

床を右手で引っかき、立ち上がろうとする。

 

「ちょっと休め。水を持ってくる。」

 

男はレオンをゆっくりと寝かせると立ち上がり、レオンから離れた。

レオンは左肩を使って体を転がし、壁にしがみついて立ち上がる。

(派手には動けないが....。)

幾分呼吸が楽になったが背中が痛い。

(地味には動けるな....。)

 

「レオン君!」

 

エイルが駆け込んで入ってきた。

 

「七誌....」

「どぉしたの?」

「七誌が....危ねぇ....。」

「七誌君なら、アレ。」

 

エイルが指を刺した所を見ると七誌が坂から転がっているではないか。

 

「七誌!」

 

レオンが走ろうと足に踏ん張りを利かせると膝から崩れ倒れた。

片膝を尽き前のめりに倒れるのを防ぐ。

 

「レオン君!」

「ラン....は....?」

「ドック。」

「ドック....戦車を動かせるのはいつ頃だ?」

「(多分)後20分ほど。」

「20分....。」

 

男が再びドアを開けレオンに駆け寄る。

 

「ニーちゃん、動くな言ってたのに!」

「戦車....七誌....が....。」

 

レオンは男の声を無視して立ち上がろうとする途中、気を失っ倒れた。

 

「おいニーちゃん!とにかくシェルターで手当てせんと!ネェちゃんも手伝ってくれ!」

 

 

「トラックは3両、そしてお前たちだけか....」

 

散乱した死体を集め、右腕を振る。盾にしたが、まだ大丈夫のようだ。

ゴンチャロスは機銃を拾いトラックの荷台に乗せる。

さて、ここからどうしようか。ハンターの対応は予測していたがここまで強力とは計算外だった。

まず自分らが前に出て襲撃し、アジトにいる人間全員をイル・ミグラに送り込もうかと考えた。

しかし今、自分らが前に出てアジトの仲間がつくまでにハンターオフィスの援軍が来ないとは限らないだろう。

ハンターオフィスの人間が一枚噛んでいる....

向こうは当然ながら戦車は持っているだろうし、仮に持っていなくてもレンタルタンクで何とかする手もあるだろう。

そもそも部下の4人で果たしてイル・ミグラを制圧できるだろうか?

無線のノイズが聞こえた。部下に目で指示を出すと慌ててトラックのドアを開け、無線に応答する。

 

「....はい....えっ....?」

「どうした?」

「お頭!ワルゲリョの野郎どもがアジトに攻め込んできたそうですぜ!」

「何だと!?」

 

ゴンチャロスはイル・ミグラを見た。

昨日の一連の行動は俺たちをおびき寄せる陽動作戦だったのか?

ハンターまで使って大掛かりな戦法をとったのか....。

頭がこんがらがったので頭を振った。そんなことはどうでもいい。今はアジトが攻められていると言う事実がそこにある。

 

「アジトへ行くぞ!」

 

ゴンチャロスはトラックの荷台に飛び乗った。

 

「イル・ミグラはどうすんですか?」

「アジトをやられたらイル・ミグラもへったくれもねぇ!それに仲間の方が先だ!車を出せ!」

 

一声の元に部下がトラックに乗り込みエンジンを起動させる。

エンジン音が低く唸り、排気ガスが巻き上がる。

車輪が回り、動き出した。アジトへと向かったのだ。



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