第十話

執筆者:楊海&BLUE WIND 

 

散々な夜が過ぎた。

結局金が払えなくなったが、偶然にも騒ぎを聞いて駆けつけたレオンに足りない分を立て替えてもらうことで何とか難を過ごせた。

 

「アレ?レオンだけ?」

「ああ。俺以外は皆新しい警備に回った。ちなみにラン達はまだ宿屋」

 

ハンターオフィス入り口の壁に目をやった。

七誌はある賞金首の張り紙を見るなり食いつくように迫った。

 

「この男!」

 

七誌は叫び、オフィスに入って賞金首について尋ねた。

 

「それは新しい賞金首で名前は『楊海(やんはい)』と言います。昨日入ったとある組織からの新しい依頼です。お知りあいですか?」

「違う。昨日酒場であった男だ。こいつに大きな借りがある。」

「貴重な情報ですね。と言うことはこの付近に存在する可能性があります。」

「ああよ。今からとっ捕まえてやるからな....。」

「この男ね....あんまりパッとしない奴なんだが。」

「彼は同組織に数回の侵入、窃盗を繰り返しついには賞金首として上がったようです。戦闘能力は不明。盗品の価値は彼の賞金首よりも数十倍以上の値段と言う噂です。」

 

七誌は0の桁を数える

 

「ひーふーみー....10000ゴールド。凡人一人でこれかい。」

「しかし戦闘能力は不明です。」

「問題じゃないな。じゃあ。捕まえに行こうか。何もする前に砲弾を打ち込んでやる。それだけのことだ。」

「その通りです。」

 

七誌は今でも勘定している。

 

「もうちょっと値上がりしてくれんもんかね....。」

「どうした?」

「いや。いい。」

 

ラン達を起こしに二人は宿屋へ向かった。

 

 

 コンコン……

「ラン、エイル、起きてるかー?」

 

完全に戦闘態勢の七誌とレオンがランの部屋をノックする。

特に七誌などは事情を知らないものが見ればこの部屋に奇襲をかけに来たかのような気合いの入りようだ。

先ほどのことがよほど頭にキているらしい。

 

「ん〜、どしたの?」

 

メガネをかけながらランが出てくる。

 

「ああ、少し手を貸して欲しくてな」

「んぇ〜?酒場で賞金首のイカサマにでもあったの?」

「……何で知ってるんだ?」

「え? 冗談で言ってみただけだったんだけど?」

 

ちびっ子侮りがたし。

起こしに来た理由を言い当てられたレオンがそんな表情を浮かべてると、奥からエイルもトテトテとやってきた。

 

「おはようございますぅ。あのぉ……詐欺にでもあったような顔してますけど、何かあったんですかぁ?」

「………お前ら本当に寝てたのか?」

「はぁ……今の今までぐっすりとぉ……」

 

またもや見事に言い当てられた。

未だかつて体験したことのないペースに飲まれ、レオンは深く溜息をつき、臨戦態勢だった七誌ですらやや脱力していた。

 

「とにかく、話は下でする。準備ができ次第降りてきてくれ」

「了解♪」

「それとだ………少しは慎め」

 

そう。文章だけではわからないだろうが、寝ていた格好そのままなランとエイルはタンクトップにショーツだけというかなり過激な格好ででてきていたのだ。

………もっとも、外見がお子様なので普通の人間が見れば「子供は無邪気だなあ」程度で済むのだが、実年齢を知っているためちょっと困る。

 

「別にボク達は平気だけどなぁ……」

「俺達が困るんだ!」

どうやら外見だけなく羞恥もズレているらしい。

それとも彼らを信頼しきっているのか、男として意識していないのか……謎だ。

 

「ったく、早く降りてこいよ」

 

できるだけランたちを見ないように言う。まあ、このパーティーはほとんどが女性を苦手としている男ばかりなので別段珍しいわけでもないが……。

 そんなレオンを見て、ランが小悪魔的な笑みを浮かべた。

 

「あれ〜、ひょっとしてレオン君って変態(ロリコン)さん?」

「………打ち首と蜂の巣、ご希望はどっちだ?」

「あはは、冗談だってぇ♪ んじゃ、すぐ用意するからちょっとだけ待っててね〜」

 

目を据わらせてているレオンを軽くあしらい、ランはドアを閉めた。

 …………本当に何歳なんだこいつ……

そんな疑問を残しつつ、またもや戦意を奪われたレオン達は溜息をつきながら階段を下りていった。

 

「『楊海』……賞金は10000G、罪状は侵入に窃盗ですかぁ」

 

 程なくして降りてきたランとエイルは、レオンと七誌にこれまでの経緯を聞き、楊海の手配書を確認していた。

 

「それと俺を騙した詐欺師だ」

 

七誌がブスッとしてぼやく。

 

「ま、イカサマはばれなきゃイカサマじゃないからねぇ〜。相手からの誘い、ついでに賭の道具も相手が出してきたのなら、まずそのコインを調べるべきだったろうねぇ」

「くっ……」

 

正論を言われ、怒りのやり場がさらになくなった七誌の機嫌もますます悪くなる。

そのやりとりを見ていたレオンだったが、それ以上に気になることがあった。

 

「……なあラン、さっきからピーナッツみたいに食ってるのはひょっとしてネジかなんかか?」

「ひょっとしなくてもネジそのものだよ。後はナットとかICチップとか。真鍮よりは鉄とかステンレスの方が美味しいかな?」

「そういうことじゃなくてだな!」

 

いちいち論点がずれている。ひょっとしたらワザとやっているのであろうか?

そんなこんなしつつ、ランは最後のネジを口に運び………

 

「(カリ……ポリポリ……ゴクッ)……ん、完成♪」

 

そして掌を上に向けると、先の対チンピラ戦の時と同じように一筋の光が現れ、ジェットサーベルを象り実体化した。

 

「はい、七誌君。どうせボク達じゃ使えないし、これあげるね。それと、流石に石油は苦くて飲む気になれなかったかったから、燃料は自分で入れといてね〜」

 

そう言って呆然としている七誌にジェットサーベルを渡すと何事もなかったかのように口を濯ぎ、オレンジジュースを飲み始めた。

 

「……おいラン!」

「あ、気にしないで〜。なんかこういう体質なだけだから」

 

……いや、凄く気にすると思うが。

 

「しかしいいのか? これだって安いもんじゃなかったろ?」

「平気平気。壊れてたのをタダ同然で譲ってもらって直した奴だから。それに、賞金首を相手にするならいくらなんでもウージーじゃキツイでしょ?それなら接近戦でも遠距離でも使えるしさ♪」

「……ああ、すまない。」

 

元ジャンク品とは思えないぐらいの、新品同様のそれを手にし、七誌の表情も多少和らいだ。

 

「それで、楊海さんは何処にいらっしゃるんですかぁ?」

「………」

 

不意のエイルの言葉に時が止まった。何せ、つい最近リスト入りしたばかりの賞金首だ。

アジトや活動範囲など、不確定要素が多すぎる。要するに、手がかりが全くないのだ。

 

「……つ、ついさっきまでここにいたんだ。そんなにすぐには……」

「転送装置かドッグシステム使ってるかも知れませんよぉ?私達はアールさん達とも一緒に行動してますから勝手に遠出するわけにもいきませんしぃ〜」

 

しばしの沈黙………

 

 

レオンが七誌の肩に手を置き、同情するような口調で言った。

 

「………バウワウ砲にホローチャージ喰らったとでも思って今回は諦めるんだな」

「……なんだそれ」 「ひょっとして、『野良犬に噛まれたと思って諦めろ』ですかぁ」

「そう、それそれ」

「……………」

 

レオンの妙なたとえ話により三度の沈黙……

 

「ちょっと待て! じゃあ俺の借金はどうなる!?」

「まあ別に利子とろうってワケじゃないし、ゆっくり返してくれればいいさ」

「それじゃ俺の気が………」

 

その時だった。

 

「山賊戦車団だー!!」

 

またもや外から悲鳴が聞こえる。

それにしてもチンピラ、レンタルタンク、詐欺師兼賞金首と来て………

 

「トドメに山賊団なぁ……厄日か、今日は?」

「『馬鹿が戦車でやってきた』って感じだねぇ……あ、そのまんまか」

「で、どうする?」

「どうしましょうかぁ?」

「クルマはドックだしねぇ」

 

と、まあ緊迫した事態裏腹に、割と緊張感のない会話が続いていた。

……ただ一人、ジェットサーベルを眺めつつ沈黙している七誌を除いて。

 

「…………」

「……七誌……君?」

 

ランが小首を傾げながら話しかける。すると七誌は突如サーベルを振りかざし、笑い出した。

 

「……クククク……上等だ! こいつの試し斬りを兼ねてまとめて切り刻んでやる!!」

「あー、キレちゃった……どうしようか?」

 

答えはわかりきっているものの、あえてランは問う。

問われた側のレオンももはや諦めきった表情で溜息をついた。

 

「どうするもこうするも、つきあってやるしかないだろ?」

「そうですねぇ、一暴れすれば落ち着くかも知れませんしぃ」

「しょうがないなぁ……。んじゃ、七誌君、行くよ」

「クックック………。今宵のジェットサーベルは血に飢えておる………」

「………だめだこりゃ」

 



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