第八話

執筆者:震電J7&BLUE WIND&レオン・ハルト大尉 

 

翌朝、突然の電文がシンデンのストライカーに入った。

『デルタ・リオ、襲われる。至急帰られたし。』

それはシンデンの故郷、デルタ・リオからの緊急電文であった。

 

「・・・何てこった・・・。」

 

シンデンの表情が苦悶に歪む。

 

「シンデン、戻るのか・・・?」

 

レオンがシンデンに尋ねる。

 

「・・・ああ。退役した私まで呼ぶ位だ。よっぽどの事だろう・・・。」

 

シンデンがレオンに答えた。

 

「な、何だと!?、シンデンが抜けた!?」

 

酒場に七誌の叫び声が響き渡る。

 

「ああ・・・。今日の早朝、故郷のデルタ・リオが襲われたって、電文が 届いたんだ。」

 

レオンが四人に説明する。

 

「それなら僕達も加勢しに行きましょうよ、大尉!」

 

ポーンがレオンに提案する。

七誌、ユウ、ゼクタ−もそれに賛同する。

 

「・・・、止めておけ。シンデンが何故、皆に何もいわずに行ったか考えろ。奴は俺達に迷惑が掛かると思ったから一人で行ったんだ。」

 

タンクウォッカを口に運び、レオンが四人を制する。

 

「でも、ひどい話じゃねぇか・・・。俺達に挨拶もしねぇで行っちまうなんてよ・・・。」

 

七誌が愚痴をこぼす。

 

「お前達に言ったら絶対に付いて来るって言い出すのを、シンデンは解ってたんだよ・・・。だから俺だけに言ったんだ。」

 

レオンが静かに話す。

 

「また会えるさ。シンデンも言ってたしな。それに、奴は『蒼き隼(あおきはやぶさ)』の雷名を持つ男だ。簡単にはくたばらんさ。」

「あ、『蒼き隼』!? あの『レッドウルフ』と一緒に戦った事があるとかいうハンターですか!?」

 

ポーンが素っ頓狂な声を上げる。

 

「『紅き狼』と『蒼き隼』・・・、かなり名の通った二人だな・・・。でも、確か『蒼き隼』は[Kタイガ−]が愛車だったハズ・・・。」

 

ユウがつぶやく。

 

「ああ、『ブル−ファルコン』だろ?まだ持ってるんじゃないか?」

 

レオンが答える。その後も五人はシンデンの話題で持ちきりであった。

 

「今度会ったら、ぶん殴ってやる!」

 

という七誌の一言と共に・・・。

 

 

そんな彼らが「鉄の穴」に戻ると、見慣れないクルマが二台止まっていた。

片方はゲパルトだが、何故か妙な違和感を感じる。

そしてその隣のクルマは見たこともないデザインの上、なんとキャタピラがなかった。

しかし、廃車になったものではないらしく、手入れもよく行き届いている印象を受けた。

 

「ずいぶんと珍しいクルマだな……ん?」

 

七誌がクルマの横に目をやると、少女が二人、数人のチンピラに絡まれていた。

いや「少女」と言うよりはむしろ子供だ。片方は7、8歳。

もう片方もどうオマケしても少し上にしか見えない。

 

「どうしたんだいお嬢ちゃん達、こんなところで? ここは危ないから帰ってオママゴトでもしてな。それともお兄ちゃん達がもっといいこと教えてやろうか?」

「おいおい、いくら何でもこんなガキ、ヤれる訳ねーだろ」

「それもそうだな、ギャハハハハハハハハ」

「でも、こっちのでかい方ならできなくもなさそうだぜぇ!」

 

おそらくはユゲから来たワルゲリョ団の残党だろう。

年端もいかない少女達に卑猥な言葉を浴びせている。

そんなチンピラ達に、少女達はきょとんとした顔で対峙していた。

 

「まったく、悪のりするのは酒場だけにしてほしいもんだ」

 

アールが肩をまわしながらそちらに向かおうとしたときだった。

 

「………変なの」

 

大きい方の少女の開口一番がこれだった。

 

「あん?」

「おじさん達こそ勘違いしてない? ここは「鉄の穴」。クルマを改造する場所なの。女の子口説くんなら酒場でやるべきじゃないの?お金さえ払えば甘えてくれるでしょ?それともボクみたいなちんちくりんの方がタイプな変態さんなの?」

「なんだとテメェ!」

「下手に出てればつけ上がりやがってぇ!!」

「……え?下手に出てらっしゃったんでっすかぁ?」

 

小さい方の子にまでこんなことを言われるチンピラ達。

この少女達、あきらかに相手を挑発している。

人間、我を忘れると動きが直線的になるため、相手に隙を作りたいときには挑発は絶好の手段だ。

しかし、それはある程度戦える者がするべきであって、今彼女達がしていることは間違いなく自殺行為だ。

 

「のガキャ!!」

 

神経を逆なでされたチンピラが次々にナイフや短銃を取り出す。

 

「いかん!」

 

七誌達も流石にマズイと思ったか少女達の間に入ろうとする。

その時、小さい方の少女が名無し達にいきなり言った。

 

「あ、お兄さん達、ちょっと伏せてて!」

「何だって!?」

 

そういう名無し達の言葉も耳に入らなかったのか、少女は何かの動作をする、その時である。

 

「…!な、なんだコリャァ!ゲホゲホ!!」

 

突如煙に巻かれるチンピラ達、結局チンピラ達はそのまま逃げてしまった。

 

「ゲホゲホ…一体何なんだコレは…」

 

回避が間に合わず、煙を吸ってしまったレオンが言う、当然である、彼らには、少女が砲弾をそのまま発射する姿が見えていたからだ。

 

「あ、遅かった?ゴメンゴメン、ちゃんと説明するからさ、その辺の話は酒場でしようよ♪」

 

二人の少女がそんな事を言う物だから、一行は(半ば強引に)酒場へ向かうこととなった。

 

**酒場**

「そんじゃ、説明してもらおうか?」

 

七誌が憮然とした顔で言う。

そりゃそうだろう。助けようとしたらいきなり煙を吸わされてしまったのだ。

 

「その前に、自己紹介がまだだったよね。ボクはラン・B・トゥルーファルス。メカニックだけどパーツの改造とかもできるよ」

 

これは少女(大)のほうだ。大と言ってもかなり小柄。

ショートカットで 大きなめがねをかけている。着ているツナギがブカブカなのは サイズがなかったからなのかも知れない。

 

「私は、エイル・I・エルスイフっていいますぅ。えっと、一応、ハンターをしてますぅ」

 

これを聞いてレオン達は唖然とした。

「ちょっと待て、こんな子供がハンターやってるのか? どう見たって子供じゃないか!」

「あの、私ぃ、これでも17歳なんですけどぉ……」

 

「「「「「!!!!!」」」」」

 

流石に5人とも口に含んでたドリンクを吹いた。

 

「そ、それじゃラン、アンタはいくつなんだ?」

 

レオンが噎せながらランに聞く。どう見てもエイルより年下とは思えないからだ。

しかし、「秘密〜♪」とはぐらかされてしまったが。

 

「まあいい。こっちの自己紹介がまだだったな。俺たちは……」

 

と、アール達5人が自己紹介をし、いよいよ話は核心へとはいる。

 

「それで、さっきの煙はなんだ? 臭いからして煙幕弾だったようだが」

「ああ、それと俺にはエイル……だっけか? が投げたようにも見えたんだが……まさか、な」

「あ、ユウさん正解。ほい、エイルちゃん」

 

言いながら、ランがエイルにグラスを投げつける。

しかしそれはエイルにぶつかることなく、空中に静止していた。

 

「これは一体……?」

 

ポーンが不思議そうに空中のグラスを手に取る。

グラス自体に仕掛けがされているというわけでもないようだ。

 

「私、重力を制御することができるんです。今のはコップの重さと運動エネルギーを0にしましたぁ」

「ふむ。つまりさっきの煙幕弾もこれと同じようにして重さを軽くし、重力波を火薬代わりにして発射した訳か」

「ピンポーン。ユウさんまたまただいせいかーい♪」

「………」

 

どうも調子が狂う。

特にレオンなどは彼女たちが本当に自分より年上なのかと信じられない様子だ。

 

「すると先ほどの二台のクルマは貴方達のものでありますか。それにあのゲパルトの主砲は……」

「うん、115mmゴーストだよ。かわいいでしょ?」

「…………」

 

論点がズレている。

まあ、改造好きのメカニックに愛車の話を振れば、大体はこんな答えが返ってくるだろうが。

 

「いえ、そういう意味ではなくて、大砲を二問も積んで大丈夫なのでありますか?」

「うん。ゴーストは軽いから平気だよ。欲を言うと『幻の緋牡丹』が欲しいんだけどねぇ」

「……あの重量1t、超高火力の205mm緋牡丹か」

幻の緋牡丹。噂でのみ存在する超軽量砲である。

同名のキャノン砲が実在してはいるが、その威力と引き替えに途方もない重量になっている。

恐らくは全く別物なのであろう。

 

「ま、ゴーストの重量は88mm機関砲より軽いぐらいだし、取り付け改造も結構簡単だったよ♪」

 

その時であった。

 

 ドゴォォォォォン!!!!!!!!!!!!

 

「砲音だと!?」

 

七人があわてて外に出る。

すると戦車止めの向こうで先ほどのチンピラ達が戦車を持ち出して騒いでいるではないか。

 

「オラ、ガキども出てきやがれってんだ!早くしねーと町ごと吹っ飛ばしちまうぞ!!」

 

得意げな顔をして車上から怒鳴り散らしている。

生身でかなわないなら戦車でというわけだ。

実に短絡的な思考であるが、ハンター内では常套手段でもある。

 

「あいつら、さっきの!?」

「………ふーん、いい根性してんじゃん」

 

 ほんの少しではあるがランが表情を硬くし、チンピラの方に歩いていく。

 

「おい、一人でどうしようってんだ!」

 

ユウが止めようとするが、ランは歩みを止めない。

戦車から顔を出しているチンピラをじっと見つめている。

 

「何だよ嬢ちゃん、おとなしく降参するのか? あのレッド・ウルフでさえ生身では戦車に勝てなかったんだ。当然だよな! ヒャハハハ!」

「オマケに丸腰ってか。個人的には丸裸の方が好きだけどな、ギャーハッハッハ!!」

 

相変わらず卑猥な言葉を投げてくるチンピラ達。

しかし、ランが臆することはなかった。

 

「………ばーか」

 

またしてもランから出たのは侮蔑の言葉。

その声からはむしろ哀れみを感じ取れたが。

「ひょっとして貴方達学習能力ないの? さっきので外見で相手を判断するなって認識できなかったの?」 

「チッ!」

 

あからさまに分の悪い挑発に見かねて、七誌が舌打ちしながらSMGグレネードを取り出そうとする。

しかし、エイルがそれを静止した。

 

「ダメです。今半端な攻撃をしてはぁ反撃で被害が町にも及んでしまいます。ランさんを信じてください。私達これでも『カオティック・フェアリーズ』って呼ばれてるんですよぉ」

「しかし、いくら何でも丸腰では………」

だが、ポーンの心配は杞憂に終わった。

ランが右手を振りかざすと彼女の掌から一筋の光が伸びた。

そしてそれは長さ1mを越えるブーメランの形をとり、そのまま大型ブーメランスパナとして実体化する。

 

「な、なんだそりゃ!?」

「覚えときなさい。ボクはね、あなた達みたいに自分の我が侭で他人を巻き込む連中がね……いっちばん嫌いなんだからぁぁぁ!!!」

 

そのままチンピラの戦車に向かって投げつける!

それは見事に命中し、行きは戦車砲を、帰りは機銃をそれぞれ破損させてランの手に収まった。

そしてこの程度のチンピラが乗る戦車はもちろんレンタルタンクな訳で、破損によりレンタルシステムが働き運転手を外に放り出して去っていく。

 

「あ、あわわ………」

 

腰を抜かすチンピラ達の前にランが立ちはだかった。

 

「………で? 生身で戦車に…………なんだっけ?」

「……ゆ、許してくれぇぇぇ!!」

「覚えてやがれぇ!!!」

 

互いに矛盾するセリフを吐きつつ、チンピラ達は今度こそ敗走していった。



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