荒野を走る一台の野バス。
シンデン。 それがこの野バス、『ストライカー』を駆る男の名であった。 彼は仲間を求め、この世界を旅している。自分の家族の命を奪った仇を討つために。 とはいえ、他人の仇討ちに報酬も何もなく付き合おうというお人好し等そう簡単には見つからない。 オマケに相手が相手だ。生半可な実力では死にに行くようなもの。 結果としてシンデンは宛のない一人旅を続けているようなものであった。 その最中、次の目的地であるリオラドの村にたどり着こうとしていたときだ。
「うん? 何だ、あの煙は…?」
そろそろ村が見えてくるかという距離になり、シンデンは前方の異変に気付いた。 立ち上る黒煙、この距離でも聞こえてくる砲音。前方の村で何が起きているのかは一目瞭然であった。
「村が襲われているのか…!!」
シンデンは速度を上げ、リオラドへ急ぐ。村は逃げ惑う人々で溢れていた。 その姿を嘲笑う集団、バイアス・グラップラー。 彼らは村や町を襲い、人々を浚っていくのだ。 既に黒幕であるバイアス・ブラドは「死に」、人間狩りをする必要などなくなっているはずだ。 それでも彼らは己の快楽の、欲望のために人間を狩り続け、いつの間にか勢力をクライムカントリーにまで拡させていた。
ドン、ドン!!
そこに突然、砲撃音が連続で響いた。グラップラーの戦車がひとたまりもなく吹き飛ぶ。
「な、何だ!?」
グラップラー達は驚き、砲撃音のした方角を見る。そこには一台の野バスが猛然と走り込んできていた。
「ハッ、たった一台で俺達に歯向かうつもりか!? 馬鹿が!!マドの村の時みたいに血祭りに上げてやるぜ!!」
グラップラー達が一斉にストライカーを攻撃する。
ドン、ドン!! ドン、ドン!!ババババババババッ!!
グラップラーの攻撃を器用にかわしながらシンデンも応戦する。 どうやら今リオラドを襲っているのはただの残党勢力のようで、これといったボスは来ていないようだ。 とはいえ、戦闘における最大の武器は物量である。 どれだけ相手の練度が低かろうが、どれだけ自分が手練であろうとも、多対一では分が悪すぎる。
「クッ、数が多いな…!」
シンデンがそう呟いた時であった。
ズドン!! シュルルルルル…、ドーーーーン!!
一発の砲弾がグラップラーの集団の中心に落ち、盛大な爆発を起こす。
「爆裂弾!?一体どこから…」
シンデンが後方を見ると、そこには一台の真っ白な大型戦車が走り込んで来ていた。 その戦車はストライカーの横に並び、通信を送ってくる。
<なかなか無茶なことしてやがるじゃねぇか。あんた一人じゃあの数は無理だ。助太刀させてもらうぜ> 「き、君は…?」 <俺ぁ七誌。『名無しハンター』。よろしく…、なっ!!>
ズドン!!
七誌の戦車が再び火を吹き、直近のグラップルタンクをまとめて吹き飛ばす。 突然の大型大火力戦車の乱入にグラップラーの指揮系統は完全に寸断される。
続けて二人の戦車は散開して次々とグラップラーを駆逐していき、三十分も経った頃には、全てのグラップラー達は
「ふう、何とか退治出来たな」 「ああ、助かったよ有難う」
シンデンは助太刀に入った七誌に礼を言う。
「いいっていいって。こいつらは元々いけ好かねぇにも程がなかったしな。
七誌は闊達に笑う。そこに村人達が現れ、二人に礼を言った。
「有難うございます。本当に助かりました」
先頭に立っていたのは家庭的な様相をした女性。美女というよりは綺麗なお姉さんという印象を受ける容貌だった。
「弟が旅に出て、父も出かけている時にこんな事になってしまい、もう駄目かと思いました。本当に有り難うございます。
流石にこれを無視するほど二人は無粋ではない。女性の申し出を、二人は快く快諾した。
「ええ、私はシンデン。旅の途中でここに流れ着いた者です」 「俺ぁ七誌ハンター。コイツで世界を廻ってんだ。よろしくな」
二人はそれぞれ名乗りを挙げた。その後、村から礼をしたいとの申し出を受けた。 村中の金を持ち寄ったかなりの額の謝礼をとの話であったが、二人は「通りすがりで勝手にやっったことだから」とこれを拒否。 その代わりに補給と一晩の飲み放題、そして宿の確保を提案した。 もちろん村側もこれに快く応じ、一番いい部屋と二人の好みの酒が存分に振る舞われていた。
「ふ〜ん、じゃあお前ぇさんは家族の仇討ちってか…」
七誌がロケットピンガをぐいっと煽る。
「ああ、しかし君の戦車には驚いたよ。ホワイトタイガーじゃないか。」 「へへ…、手に入れるのに苦労したんだぜ♪」
七誌は得意げに話す。ハンターにとって自分の戦車は旅の相棒であると共に、己の冒険の結晶でもある。 それを誉められて悪い気がする者はそうはいないだろう。
「それにあの命中精度は驚異的だな。百発百中だったな」 「ああ、目が良いんだ。2km先のメタルイーターも撃てるぜ。とはいえ、性根としては接近戦の方が好きだったりもするんだがな」 「たいしたものだ」
胸を張る七誌にシンデンは苦笑いを浮かべた。あり得ないほどの例えではあるが、あの精度であれば真実だとしてもおかしくない。
「それでもアイツにゃかなわねぇけどな。対物ライフルで同じ事やりやがる」
まさかとは思ったが、他人に対する評価にわざわざ下駄を履かせる必要もあるまい。 世界は広い事を改めて認識しつつ、シンデンは七誌と共に酒場を後にし、それぞれの戦車の補給を済ませる。
「あんたの野バス、かなりいじってあるな」 「ん?ああ。世界中を廻ってるうちに、こうなったんだ」 「ふ〜〜ん…」
七誌はシンデンのストライカーを見せてもらう事にした。
「……」
しばらくストライカーを見ていた七誌が考え込んだ様な素振りをみせる。
「どうした、七誌?」 「いや、この車の装備がよ、知ってる奴の戦車とよく似てんだよなぁ」
七誌は腕を組み、シンデンに訳を説明する。
「知ってる奴、というのは…?」
「ん?ああ、さっき話した狙撃バカのことだ。レオン・ハルトってぇ奴でな。元々は傭兵なんだが、ハンターオフィスに気に入られてよ。
そう言って七誌は笑顔をみせた。 戦車の装備にはドライバーの個性が出る。 自分と似たセンスを持つというその生真面目な男に、シンデンは少々興味を持ち始めていた。
「ところでよ、お前ぇさん、これから行く宛はあるのかい?」 「そうだな、当面は協力者を捜したいと思っている。とりあえずはポブレ・オプレに向かうつもりだ」
今日の戦闘で、一人ではどうにもならないことを改めて痛感した。 本格的に仲間を募るのであれば、人の多い場所、つまり大きな町を目指すに越したことはない。 これを聞いた七誌は一瞬だけ考え込むと、いきなり大声を上げた。
「おっし!決めた!俺もついていくぜ!」 「…は?」
これを聞いたシンデンは思わず目を丸くした。
今までこちらから頼んで断られることは数えるのも馬鹿馬鹿しいくらい繰り返してきたが、頼んでもいないのについてくると
「何鳩が豆鉄砲食らったような顔してるんでい」 「いや、しかし、本当にいいのか?」
「今更何行ってやがる。仲間を捜してるって言ったのはそっちの方じゃねぇか。それに言ったろ。俺も連中が気にくわねぇって。 「…ありがとう。よろしく頼む」
余計な気を使いすぎてしまった自分に対する七誌の気遣いに、シンデンは改めて礼を言うと手を差し出す。 それに対する七誌の返事はやや物騒ながらも、とても頼もしいものであった。
「おうよ。地獄の果てまで付き合ってやるぜ」
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